」
「いや、その門之丞は、途中からふっといなくなったので――」
「ウム、門之丞があやしい。で、貴殿らお二人は、ここへくる途中、本郷の不知火道場へお立ちよりになりましたか」
「いや、その黒焦げの死骸が、源三郎様でなければよいがと、いろいろ調べたり、また丹波らの行動がいかにも不審なので、そこここ近処をたずねたりいたし、心ならずも夜まで時をすごして、とにかく、当上屋敷へ真一文字に飛んでまいったわけ……」
伊賀侍の一団は、みなまで聞かずに、おっ取り刀で屋敷をとびだした。眠る江戸の町々に、心も空《そら》、足も空《そら》、一散走りに、お蓮様の寮の火事跡をさして……。
焼《や》け野《の》の鬼《おに》
一
人の話を聞いても、さっぱりわからないんです。
なんでも、明け方、この寮の四方八方から、一時に火が起こって、あっと言うまにあっけなく燃えちまったという。
それだけのこと。
誰も人の住んでいるようすはなかった。さながら、がらんどうの家から火が出て、そのまま焼け落ちたようなものだが、ただ、老人と若いのと、見なれない侍が二人、何か主人の安否でも気づかうふうで、近くの村々の火消しとともに、あれよあれよと走りまわって、消防に手をつくしていたが。
そして。
焼け跡から、まっくろになった死骸が一つ、何やら壺のような物をしっかり抱きしめたまま、発見された……というのが、駒形のお藤の家から駈けつけた丹下左膳が、まだ余燼《よじん》のくすぶる火事場をとりまいている人々から、やっとききだし得た情報の全部でした。
「その死骸《しげえ》は、どうしたのだ?」
きかれた人々は、異様な左膳の風態におどおどして、
「へえ、火消しどもが、その死骸をかつぎだして、わいわい言っているところへ、なんでも、火元改めのえらいお役人衆の一行がお見えになって、その死人をごらんになり、ウン、これはたしかに、綽名《あだな》を伊賀の暴れん坊という、あの柳生源三郎様だと、そう鑑別をしておいででした」
左膳はギックリ、
「ナニ、役人がその死骸を見て、柳生源三郎だと言ったと?」
相手の町人は、揉《も》み手をしながら、
「ヘエ、伊賀の暴れん坊ともあろう者が、焼け死ぬなどとはなんたる不覚……そうもおっしゃいました。はい、あっしはシカとこの耳で聞いたんで……」
「そうすると、やっぱり、伊賀の暴れん坊は死んじゃったんですねえ」
そばからチョビ安が、口を出す。
蝶々とんぼの頭に、ほおかぶりをし、あらい双子縞《ふたこじま》の裾をはしょって、パッチの脚をのぞかせたところは、年こそ八つか九つだが、装《なり》と口だけは、例によっていっぱしの兄《あに》イだ。
左膳はそれには答えずに、
「ふうむ。寮の者ははじめから、一人も火事場にいなかったというんだな?」
「ヘエ、なんでもそういうことで」
その源三郎の死体らしいのが、壺をしっかり抱いていたというのが、左膳は、気になってならなかった。
壺……といえば、こけ猿の壺のことが頭に浮かぶ。こけ猿はいま自分が、お藤に預けて出てきたのだから、こんなところにあるはずはないけれど――。
なおもくわしくきいてみようとして振り返ると、もうその町人は、向うへ歩いていっていた。
寮は見事に焼けてしまって、周囲の立ち樹も、かなりにそばづえをくい、やっと一方の竹林で火がとまっているだけ。暗澹《あんたん》たる焼け跡に立って、ここが源三郎の落命のあとかと思うと、左膳は、立ち去るに忍びなかった……なんとかして、その源三郎の死骸てエのを、一眼見てえものだが。
「フン、くせえぞ」
この火事そのものに、機械《からくり》があるような気がしてならない。左膳は、左手で顎をなで、頭をかしげて考えこむ。チョビ安も、左手で顎をなで、頭をかしげて考えこむ。なんでもチョビ安、父左膳のまねをするんです。
二
好敵手……いつかは雌雄を決しようと思っていた柳生源三郎。
かれの一刀流、よく剣魔左膳の息の根をとめるか。
または。
相模大進坊《さがみだいしんぼう》濡れ燕、伊賀の暴れん坊にとどめをさすか――?
たのしみにしていたその相手が、むざむざ卑怯な罠《わな》にかかって、焼け死んだと知った左膳の落胆、その悲しみ……。
同時にそれは、自分から、ただ一つの生き甲斐をうばった峰丹波一味への、焔のような怒りとなって、左膳の全身をつつんだのだった。
「畜生ッ!――星の流れる夜に、いま一度逢おうと刀を引いて、別れたきりだったが……」
と左膳、焼け跡に立って、悵然《ちょうぜん》と腰なる大刀の柄をたたいた。
「やい、大進坊《だいしんぼう》、お前《めえ》もさぞ力をおとしたろうなア」
「アイ、おいらもこんなに力をおとしたことはねえ」
まるで刀が口をきいたように、そば
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