ずらりと遠輪に囲んだ剣陣が、網をしめるよう……じ、じ、じッと爪先|刻《きざ》みに迫ってゆく。
刀痕《とうこん》鮮かな左膳の顔が笑いにゆがみ、隻眼が光る。
「この刀で、すぱりとな、てめえ達の土性《どしょう》ッ骨を割り下げる時がたまらねえんだ。肉が刃を咬んでヨ、ヒクヒクと手に伝わらあナ――うふっ! 来いッ、どっちからでもッ!」
無言。光鋩《こうぼう》一つ動かない。
鉄斎は? 見ると。
われを忘れたように両手を背後に組んで、円陣の外から、この尾羽《おは》打枯《うちか》らした浪人の太刀さばきに見惚れている。敵味方を超越して、ほほうこれは珍しい遣《つか》い手だわいとでもいいたげなようす!
焦《いら》立ったか門弟のひとり、松をへだてて左膳のまうしろへまわり、草に刀を伏せて……ヒタヒタと慕い寄ったと見るまに、
「えいッ!」
立ち上がりざま、下から突きあげたが、
「こいつウ!」
と呻いた左膳の気合いが寸刻早く乾雲|空《くう》を切ってバサッと血しぶきが立ったかと思うと、突いてきた一刀が彗星《すいせい》のように闇黒に飛んで、身体ははや地にのけぞっている。
弥生の悲鳴が、尾を引いて陰森《いん
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