撃剣叢談《げきけんそうだん》巻の二、微塵流のくだりに。
 武芸小伝に微塵流|往々《おうおう》存するよし見えたれば、兎角が末流近世までも行なわれしがごとし。いまも、辺鄙《へんぴ》にはなお残れるにや、江戸にはこの流名きこゆることなし……とあるとおりに、月輪軍之助の祖月輪|将監《しょうげん》は、根岸兎角ひらくところの微塵流から出てのちに、北陬《ほくすう》にうつり住んで別に自流を創《そう》し、一気殺到をもって月輪一刀流と誇号したのだった。
 当代の道場主軍之助は、以前から丹下左膳と並称された月輪門下の竜虎。
 左膳に破流別動の兆あるに反し、軍之助は一刀流正派のながれを守るものとして先師の鑑識《めがね》にかない入婿して月輪を名乗っているのだが、剛柔兼備《ごうじゅうけんび》、よく微塵流の長を伝えて、年配とともに磐石のごとくいま北国を圧する一大剣士であった。

 変動無常
 因敵転化《てきによっててんかす》
 という刀家相伝《とうけそうでん》三略のことば。
 それが初代将監先生大書の額となってあがっている月輪の道場である。
 夜のひき明け……。
 もはや寒稽古は終わったけれど、未明の冷気の熱汗をほとばせる爽快《そうかい》味はえもいわれず、誘いあわせて、霜ばしらを踏んでくる城下の若侍たちひきもきらず、およそ五十畳も敷けるかと思われる大板の間が、見る見る人をもって埋まってゆく。
 相馬《そうま》は、武骨をもって聞こえる北浜《ほくひん》の巨藩である。
 しかも藩主大膳亮が刀剣を狂愛するくらいだから、よしや雪月花を解する風流にはとぼしいといえども気風として烈々|尚武《しょうぶ》の町であった。
 相馬|甚句《じんく》にいう。男寝て待つ果報者――それは武士達のあいだには通用しない俗言とみえて、こんなに朝早くから陸続と道場の門をくぐっているのだ。
 竹刀のひびき。
 気合いの声。
 板を踏み鳴らす音。
 それがしばらく続いて、いつもよりすこし早めにとまったかと思うと、
「おのおの方、ただいま先生よりお話がござる。粛静《しゅくせい》に御着座あるよう……」
 という師範代|各務房之丞《かがみふさのじょう》の胴間声《どうまごえ》に、一同、ガヤガヤと肩を押し並べてすわったが、おもむろに正面の杉戸が開いて出て来た月輪軍之助を見ると、満堂思わず、アッ! と愕《おどろ》きの声をあげた。
 その姿である。急に
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