うッと、草餅よ。はははは、くさもちは、どうでエ?」
「くさもちはありませんが、かき餅が名物でござんす」
「笑《わら》わかしゃがらア! 草もちのかわりにかき餅とくりゃあ世話アねえ。にっぽん語の通じねえところだから情けねえ――それなら姐《ねえ》や、なんだぜ、今夜忍んで行くぜオイ。え? いいだろう?」
「あれ! 知りませんよ」
「なに、知らねえことがあるものか。お前みてえなべっぴんは江戸にも珍しい」
「ホホホ、それほどでもござんすまい――そんな殺し文句をまいて歩くと、あの女《ひと》がただはおきませんよ」
「何を言やんでえ!」
などと与吉一流の無駄口をたたきながら飯をすまして、一風呂ザアッと流してくるからと按摩を頼み、手拭をぶらさげて突っかけ草履、与吉が廊下へ出たところへ、どこの部屋からかあまり粋とはいえない三味線の音……。
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しぐれ降る浅茅《あさじ》ヶ|原《はら》の夕ぐれに二こえ三声|雁《かり》がねの、便り待つ身の憂きつらさ――。
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と来たときに、お節介《せっかい》な与の公、耳をおさえて、
「よしゃアがれッ!」
と、どなりながら、暗い裏梯子を駈けおりると、とっつきが風呂場になっていて、ガヤガヤと人声がこもっている。
男女混浴……国貞《くにさだ》画《えが》くとまではいかないが、それでも裸形《らぎょう》の菩薩《ぼさつ》が思い思いの姿態をくねらせているのが、もうもうたる湯気をとおして見えるから、与吉はもう大よろこび。
「あらよウッ! みなさん、ごめんねえ!」
と、精々いなせに飛びこんでゆくと! 聞き覚えのある謡曲の声とともに、よもぎのような惣髪《そうはつ》のあたまが一つ、せまい湯船の隅にうだっている。
はッ! と思うと与の公、ちょいと身体を濡らしただけで、そのまま女たちのあいだをこっそり抜け出て来ようとしたが、すでに遅かった。
「はっはッはっは、待っておったぞ!」
と割れっ返るような大声といっしょに、泰軒先生がヌッと湯の中に立ちあがったから、与吉は妙な恰好に流し場にしゃがんで、
「おや! 先生でございますか。どうなさいましたかと、じつは御心配申しあげておりましたよ。でもまあ、よく御無事で、エヘヘヘ……」
「ひさしく会わんような挨拶だナ」
「いえね、全く。さっきこの柳屋の前の往来でひょいと気がつくてえと、先生のお姿がかき
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