足を早め、坤竜丸を帯《たい》して本所をさして急いだが。
同じ時刻に。
本所へ通ずる別の道を、これは乾雲をひっつかんだ諏訪栄三郎が、おなじく鈴川屋敷を指してひた走りに駆《か》けていた。
鈴川源十郎にお艶を懇望され、その手切れの第一として、丹下左膳の隠しておいた乾雲丸を掘り出して来た。
言わばこれは源十郎の殿様から贈られたお艶の代償《だいしょう》!
と、老婆おさよの口より聞くや否や、諏訪栄三郎の双頬《そうきょう》にさっ[#「さっ」に傍点][#「さっ」は底本では「さつ」]と血の気が走った。
「ううむ! 刀と女の取っかえっこだとは、きゃつ自身、いつか拙者に申し出たところ、さてはそこもとがかの源十郎と腹をあわせて、丹下の乾雲を盗み出したのであったか」
こう歯を食いしばった栄三郎、あわててとめるおさよの手を払い、すっと立ってすばやく身づくろいに移っていた。
竜は雲を呼び、雲は竜を待つとはいえ、腕で奪《と》り、つるぎにかけて争ってこそ互いに武士の面目もあろうというもの――。
それをなんぞや! 一老婆が偸盗《ちゅうとう》のごとく持ち出したものを、なんとておめおめと受納できようか。
しかもそれが妻を売る値《あたい》だという。もってのほかと言うべきところへ、あまつさえそのお艶もすでに家を出ているではないか。
これをこのまま受け取ってはおられぬ。源十郎に逢って面罵し、乾雲丸は一時左膳の手へ返そうとも筋ならぬものを納めたとあっては、栄三郎、男がすたる……。
こうとっさに決心した彼は、武蔵太郎と乾雲を腰間《こし》に佩《はい》してパッと雪の深夜へとび出したのだった。けたたましく呼ぶおさよの声をあとにして。
天地を白く押しつつんで、音もなく降りしきる雪、雪、雪。
どうあってもこの乾雲丸、さっそく左膳の手へ押しつけて、しかる後今宵こそは一騎がけ、必ず腰の武蔵太郎にもの言わせずにはおかぬ!
トットと雪を蹴散らしながら、栄三郎が本所をさして走っていくと、ほかの道を丹下左膳が、お藤の盗んで来た坤竜丸をひっつかんで、これも同じく本所めがけて急いではいるが!
左膳の心もちはおのずから別だった。
目的のために手段をえらばない丹下左膳。
たとえどんな道筋であろうと片割れ坤竜丸が手に入った以上は、一刻も早く椎の根に埋めた乾雲丸を掘り出し、夜泣きの刀を一対として、明け方にははや江
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