こんな貧乏《びんぼう》暮しをしているんですもの」
「ふたことめには貧乏貧乏と申す……それほど貧乏がいやか」
「癇《かん》のせいか、あんまりゾッといたしませんねえ。そりゃそうと、どうおっしゃるのですか……乾雲丸か、このあたしか」
「黙れッ! おのれお艶、痩せても枯れても武士の妻ともあろう者が、正邪《せいじゃ》の別、恩愛《おんあい》義理《ぎり》をもわきまえず、言わせておけば際限もなく、よッくノメノメとさようなことがいえるな。貴様は魔に魅入《みい》られておるのだから、拙者も真面目には相手にせぬ。ひとり胸に手を置いて考えてみるがよい」
「またお談義《だんぎ》! 何かというと武士、刀の手前――どうも当り矢のお艶も、おかげさまでこんなかたッくるしい言葉をおぼえましたけれど、あたしはそんなえらそうなことを言って、自分達は食べるか食べないで、たかがお刀一本に眼色顔いろを変えて、明けても暮れても駈けずりまわっているお人よりも、町人でもお百姓でもようござんすから、あたしひとりを大事にしてくださる方に、しっくりかわいがってもらいたい……ただそれだけでございます」
「ううむ、見損《みそこな》ったかな――」
「ほほほ、そりゃアお互いさま」
「で、いかがいたせというのだ?」
「まず乾雲丸のことをフッツリお忘れなすって、それからその厳《いか》つい大小をさらり[#「さらり」に傍点]と捨てて、あたまも小粋に取りあげてさっぱり[#「さっぱり」に傍点]した縞物か何かでおもしろおかしく……」
「ぶるる、馬鹿ッ! 何を申す! 貴様、そ、それが本心かッ?」
「ほんしんでございますとも。あたしだってちったあ眼先が見えますよ。あなたは、あの弥生さまとごいっしょにおなりなさりたくても、お刀がなければ押しかけ婿にもいかれないので、あれ[#「あれ」に傍点]がお手にはいるまで、あたしってものをこうしてだし[#「だし」に傍点]に使っていて、刀を取るが早いか、あたしを棄ててその刀を引出物《ひきでもの》に弥生さまのところへ納まろうというんでございましょう? そんなこと、こちらは先刻《せんこく》御承知でございますよ。ほほほ」
「お艶!――キ、貴様、気がふれたナ! 夜泣きの刀の分離も、もとはと言えば拙者から起こったこと。されば丹下左膳より乾雲丸を奪還し、この坤竜とともどもに小野塚家の当主《とうしゅ》弥生殿の前にそろえて出すのは、弥
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