らいたい。礼は後日のぞみ放題《ほうだい》にとらせる」
「おっと! 水くせえや殿様。私とあなた様の仲じゃアありませんか、礼なんて――へっへへへ」
と、ここに話し成って、まもなく与吉は自宅《うち》へ帰ってしたくにかかると同時に!
夜中、やみに紛れて左膳は、こっそりと……真《しん》にこっそりと、夜泣きの刀の大、乾雲丸を、鈴川庭内の片隅に土を掘って埋めたのだが――。
たれ識《し》らぬと思いきや!
ここにひとり、この左膳の乾雲|埋没《まいぼつ》をひそかに目睹《もくと》していたものがあった。
あれから数日。
さてこそ、あのものものしい旅装をととのえたつづみ[#「つづみ」に傍点]の与吉。はたして今ごろは奥州口をひたすら北へ北へと指して、いそいでいることであろうか。
とにかく今日まで、離庵《はなれ》の丹下左膳のうえに、なんとなく心もとない起居《おきふし》が続いていたのだった。
左膳のために求援《きゅうえん》の秘使にたったつづみ[#「つづみ」に傍点]の与吉。
さっそく、旅仕度をして、なんとかして栄三郎を突きとめたいと、浅草歳の市をぶらついていると、折りよく栄三郎の姿を見かけて手紙を押しこんだまでは上出来だったが――。
掏摸《すり》とまちがわれて追っかけられ、ようよう櫛まきお藤の家へ飛びこんでほっと安心――するまもなくその旅装から左膳との謀計《ぼうけい》を疑われて、お藤の嬌媚《きょうび》で骨抜きの捕虜にされてしまった形。
色っぽい眸ひとつにぐにゃり[#「ぐにゃり」に傍点]と降参した与の公は、こうして左膳の期待を裏切り、いまだにお藤の二階にブラブラしていることかも知れない。
左膳の身になれば、これほどの手違いはまたとあるまい。だが、それと、そうして、左膳の文によって栄三郎がいかに考え、まさに左膳の言い分を真実ととりはしなかったろうが、今後の処置をどう決したか? ということはしばらく天機《てんき》のうちに存するとして。
また、栄三郎が左膳の手紙を取り落として、それが、人もあろうに、越前守忠相に拾われて今その手にあることもここに問わず……。
ただ、お藤である。
彼女は、与吉の口から、乾雲丸が左膳のもとにないと聞くや、ただちにそのからくりを見破って、与の公までが左膳に肩を入れるのがくやしくてならなかった。
恋しい左膳さま――それはいまも変りがないが、容れられて
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