ねまわして何を思いついたものか、二こと三ことささやくと、左膳はたちまち与吉の進言をいれて、隻眼によろこびの色をうかべながら会心の小膝を打った。
 いずれ事成ったのちに相応の賞を与えようと誓《ちか》ったのであろうが、ふたりはなおも密談《みつだん》数刻ののち、とうとう議一つに決してただちに実行に着手したのだった。
 これは、あの大岡越前守忠相が浅草の歳の市にあらわれて、栄三郎へあてた左膳の書面を手に入れた数日前のこと……つまり、まだ年のあらたまらないうちであった。
 で、そのつづみ[#「つづみ」に傍点]の与の公一代の悪智恵《わるぢえ》というのは、こうである。
 さて、つづみの与吉の策略によって――左膳は即座に筆を執《と》って、あの、栄三郎に宛てた一札を認めたのだった。
 その文言は、彼の五人組に秘刀乾雲を奪い去られて、いま手もとにないこと。
 そして、こうして自分が乾雲丸を所持していない以上は、もはや栄三郎とも仇敵《かたき》同士に別れてねらいあう意味のないこと。
 のみならず、これからのちは、左膳が栄三郎に腕をかして、栄三郎の腰に残っている坤竜丸の引力により、再び乾雲を呼びよせて火事装束に鼻を明かしてやりたいが雲煙|霧消《むしょう》、従来のことはすっぱりと忘れて改めてこの左膳を味方にお加えくださる気はござらぬか。
 ――という欺誑《ぎきょう》と譎詐《きっさ》に満ちた休戦状でありまた誠《まこと》に虫のいい盟約の申し込みでもあった。
 さしずめこの手紙を栄三郎へ渡して、しばしなりとも坤竜の動きをおさえて置くあいだに。
 さ、その間にどうする?
 という段になって、左膳と与吉、いっそう語らいをすすめた末。
 今は、坤竜を佩《はい》する栄三郎と、その助太刀泰軒ばかりではなく、じつに得体の知れない火事装束の五人組というものを向うへまわさなければならないので、いかに至妙の剣手とはいえ、丹下左膳ひとりではおぼつかない。あまつさえ身を寄せる家のあるじ、鈴川源十郎は、老下女おさよにとりいってお艶、栄三郎を離間しようとのみ腐心し、決然剣を取って左膳に組し、栄三郎を亡き者にしようという当初の意気ごみをしだいに減じつつあるこんにち。
 なるほど、諏訪栄三郎は左膳にとっては剣の敵。
 源十郎にとっては恋のかたき……。
 ではあるが、はじめ何ほどのことやあろう、ただちに乾坤二刀をひとつに手挟《たば
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