でもしたよう――。
サッ! としたたか返り血を浴びた左膳、
「ペッ! ベラ棒に臭えや」
と、左手の甲で口辺をぬぐった時、
「神妙にいたせッ!」
大喝、おなじく捕役のひとり、土を蹴って躍りかかると、刹那《せつな》に腰をおとした左膳は、
「こ、こいつもかッ!」
一声呻いたのが気合い、転じてその深胴《ふかどう》へザクッ! と刃を入れた。
――と見るより、再転した左膳、おりから、横あいに明閃《めいせん》した十手の主《ぬし》へ、あっというまに諸《もろ》手づきの早業、刀身の半ばまで胸板に埋めておいて、片脚あげて抜き倒すとともに、三転――四転、また五転、剣体一個に化して怪刃のおもむくところ血けむりこれに従い、ここに剣妖丹下左膳、白日下の独擅場《どくせんじょう》に武技入神の域を展開しはじめた。
が、寄せ手の数は多い。
蟻群の甘きにつくがごとく、投網《とあみ》の口をしめるように、手に手に銀磨き自慢の十手をひらめかして、詰《つめ》るかと見れば浮き立ち、退《しりぞ》くと思わせてつけ入り……朱総《しゅぶさ》紫総《しぶさ》を季《とき》ならぬ花と咲かせて。
「うぬウッ!」
と左膳は、動発自在の下段につけて、隻眼を八方にくばるばかり……重囲脱出《じゅういだっしゅつ》の道を求めているのだ。
暮れをいそぐ冬の陽脚。
そして、夕月。
樹も家も人の顔も、ただ血のように赤い夕映えの一刻に、うすれゆく日光にまじって、月はまだひかりを添えていなかった。
刃火のほのおと燃えて天に冲《ちゅう》するところ、なんの鳥か、一羽寒ざむと鳴いて屋根を離れた。
縁側に立って、うっとりこの力戦を眺めている源十郎は、剣香《けんこう》に酔って抜くことも忘れたものか――いわんや、おさよ婆さんなぜか足音をぬすんで、とうの昔にその座敷をまぎれ出ていたことには、かれはすこしも気がつかなかった。
上役人に刃向かって左膳を救い出すか……それとも、友を見棄てておのれの安穏《あんのん》を全うすべきか?
この二途に迷いながら、ひとつにはただぼんやりと、いま庭前に繰りひろげられてゆく剣豪決死の血の絵巻物に見とれている源十郎。
かれは片手に大刀をさげ、片手で縁の柱をなでて左膳の剣が捕吏《とりて》の新血に染まるごとに、
「ひとウつ! ふたアツ! それッ! 三つだ! 三つだアッ! ほい! 四つッ!」と源十郎、子供が、木から
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