「うむ。存じておる。だが、諏訪氏は諏訪氏として」
「でも、栄三郎様もお艶ゆえに実家を勘当《かんどう》されている身でございますから、この際、離縁《りえん》をとりますには、いくらかねえ……でないと、お話が届きますまいと存じますよ」
 源十郎はぐっ[#「ぐっ」に傍点]と反身《そりみ》になって、
「手切《てぎ》れ金か、いやもっとも。話は早いがいい。どのくらいで諏訪氏その離縁状を出すだろうの?」
「さようでございます。まとまったお金は五十両一度におもらい申したことがありますが、お兄上様とおもしろくなくなったのはそれからでございますから、今五十両渡しましたら、栄三郎様もお艶と手を切って……」
 あのいつかの五十金、駒形の寺内でつづみ[#「つづみ」に傍点]の与吉を使って一時手に入れたのを、そばからすぐに泰軒に取り戻された金子《きんす》のことを思いうかべて、源十郎は含み笑いを殺しながら、
「よし、わかった。そんならその金は拙者が引き受けて才覚《さいかく》いたす。それはよいが、掛け合いには誰が参る?」
「それはあの、だれかれと申さずに私が参りましょう」
「そうか、では、何分よろしく頼む」
 と、源十郎が、ぴょこり[#「ぴょこり」に傍点]と辞儀《じぎ》をしたその耳もとへ、おさよはすばやく口を持っていって、
「それからあの、栄三郎が命がけでほしがっているものが――」
「うむ、うむ! か、刀であろうが? なれど、おさよどの、あれは、あれは左膳が……」
「ですけれど殿様」
 にじり寄ったおさよが、何事か源十郎にささやいたが、その咽喉仏《のどぼとけ》が上下に動き終わった時、鈴川源十郎、思わずアッと驚愕《きょうがく》した――とたんに!
 ぬっと障子に人影がさして怪物丹下左膳のしゃがれ[#「しゃがれ」に傍点]声。
「おいッ! 源十ッ! 八丁堀が参った。また一つ、剣の舞いだぜ」
 と! うわあッ! というおめきが屋敷の四囲に!
 御用ッ!
 御用ッ! 御用ッ!
 と声々がドッとわき起こるのを耳にした鈴川源十郎が、障子を蹴開いた面前に、独眼隻腕の丹下左膳、乾雲丸は火事装束の五人組に奪い去られたとあって、普通の大小《だいしょう》だが、左剣手だけに右腰にぐっと落とし差しのまま、かた手を使ってその上から器用に帯を結びなおしているところ。
 縁の上下に、源十郎と左膳、さぐるがごとき眼を見合ってしばし無言がつ
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