うまもなく、サッと板戸があいて、老若ふたりの浪人姿が黒い影となって戸口をふさいだ。そして暗い室内をしばらくのぞいているようだったが、やがて、ここからは出られぬことを見たものらしく、軽い失望の言葉を捨てて戸を閉《し》めた。
 二人の足音が遠ざかって、そのうちに台所ぐちからでも屋敷を出離れて行ったけはい。
 これを娘お艶の男の栄三郎と知らぬおさよは、ほっとしてまた耳を傾けた。
 今ふたり出ていったにもかかわらず、庭にはまだ剣のいきおいが漂《ただよ》って、撃ちあうひびき、激しい気合いが伝わってくる。
 栄三郎に泰軒としては。
 この鈴川の屋敷に、お艶の母おさよ婆さんが下女奉公にあがっていて、それがお艶が逃げたことから源十郎にひどいめにあわされているらしいと知っていたので、ついでに助け出したいとも思って納戸まであけてみたのだったが、世の中にはこういう変なことがすくなくない。救いを求める人と、救う目的でさがす人とが一度はこんなに近く寄りながら、たがいに相手を知らずにそのまま過ぎてしまう――これも人間一生の運命《さだめ》を作る小さなはずみのひとつかも知れなかった。
 夜もすがらの雨に、ようやく明けてゆこうとする江戸の朝。
 やがて……。
 泰軒と栄三郎が、遠く鈴川の屋敷をはなれたころ。
 ほかの側の外塀《そとべい》にぴったりついて、先刻から供《とも》待ち顔に底をおろしている五梃の駕籠《かご》があった。
 江戸の町では見かけない山駕籠ふうの粗末なつくりだが、陸尺《ろくしゃく》は肩のそろった屈強なのがずらりと並んでいて、
「エオ辰《たつ》ウ、コウ、いやに長く待たせるじゃあねえか」
「さようなあ。もういいかげん出てきそうなもんだが、こう長くかかるところを見るてえと、こりゃあひょっとすると大物のチャンバラだぜ。なあ勘《かん》」
「あたりめえよ。荒療治《あらりょうじ》だなあ。ちったあ手間のとれるなあ知れきったこった」
「それあいいが先にもだいぶんできてるのがいるっていうじゃあねえか」
「そのかわり、こっちだって一粒|選《よ》りだ。なあに、案ずることあねえやな」
「俺《おれっ》チだっていざとお声がかかりゃあ飛びこんでって暴れるんだ。先生ら、こう、ぴかつく刀を振りまわしてよ、エエッ……なんてんで、畜生ッ、うまくやってるぜ」
「全くだ。おれも乗りこんでやってみてえなあ」
「シッ! おおい、みん
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