から抜け出て行った。
 うらは別の露地へひらいて、右へ切れてまっすぐに行けば第六天|篠塚稲荷《しのづかいなり》のまえへ出る。
 軒づたいにそこまで逃げのびたお藤は、ほっとしてうしろを振り返った。
 追って来る御用提灯もなく、夜の雨が遠くの町筋を仄《ほの》白くけむらせている――あれほどはりつめた捕手の網もどうやらくぐりぬけ得たらしい。が、ゆすり騙《かた》り博奕兇状《ばくちきょうじょう》で江戸お構えになっている自分の身に今さらのように気がついてみると、いまのさわぎといい、ここらは全部手がまわっているらしく、
「こりゃうっかりできないよ!」
 とお藤がひとり言を洩らした時!
「これ! 女ひとりか。この夜更けにどこへ参る?」
 という太い声が前面からドキリとお藤の胸をうった。
「は。いえ、あの、わたしはそこの長屋の女でございますが、ただいま夜中に急病人がでまして――」
「医者を迎えに行くというのか」
「はい」
「よし。気をつけてゆけ」
「有難うございます」
 で、二、三歩歩きかけた背後から!
「櫛まきお藤ッ! 神妙《しんみょう》にお縄を頂戴《ちょうだい》いたせッ!」
 と一声!
 行き過ぎた捕役の手にキラリ十手が光って!
「何をッ! おふざけでないよ!」
 構えたお藤、ちらちらと周囲を見ると、雨に伏さった御用の小者が、襷《たすき》十字も厳重にぐるりと巻いてしめてくる。
「あめの中から金太さん……て唄はあるけれど、そうすると、ここに待っていたのかえ。ほほほほほ」
 不敵にほほえみながら、懐中に隠し持った匕首《あいくち》、逆手に握ると見るまに、寄ってきた一人の脇腹をえぐるが早いか、櫛まきお藤は脱兎《だっと》のごとく稲荷の境内に駈けこんで、祠《ほこら》をたてに白い腕を振りかぶった。
「御用ッ!」
「櫛まきッ! 御用ッ!」
 ビュウッ! と捕縄《ほじょう》をしごいて口々に叫びかわす役人のむれ、社前のお藤をかこんでジリジリッとつめてゆく。
 うしろざまに階段へ一足かけたお藤の姿は、作りつけのように動かなかった。
 風のごとく表から飛びこんで来たお藤が、風のごとく裏へ吹き抜けて行ってからまもなく。
 お艶と弥生、あっけにとられた顔を見合わせているところへ、先刻お藤をかぎつけた御用聞きをさきに数人の捕吏がどやどやとなだれこんできて、
「いま、ここへ女がはいって来たろう?」
 と威猛高《い
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