い! と見て踏み出した栄三郎も、眼前に立ち現われたこの侍の相形《そうぎょう》には、思わず愕然《ぎょっ》として呼吸を切った。
 正規の火事|装束《しょうぞく》――それもはっきりと真新しく、しかるべき由緒《ゆいしょ》を思わせる着こなし。
 それが抜き放った大刀をじっと下目につけたまま、栄三郎の気のゆえか、どうやら角頭巾《かくずきん》の下から眼を笑わせているようだが、剣構品位《けんこうひんい》尋常でなく、この場合、おのずと立ち向かった栄三郎、何やらゾクッ! と不気味でならなかった。
 なに奴《やつ》?
 地からせり上がったか、それとも闇黒が凝《こ》ったか――とにかく、鈴川邸内の者とは見えない。
 とすれば?
 駈けつけた敵の助勢であろうか、それにしても、このものものしい火事場の身固めと、なんとなく迫ってくる威圧、倨傲《きょごう》の感とは、なんとしたことだ……。
 刀をつけながらも、不審《ふしん》にたえない栄三郎が、さまざまに思い惑って、ちらとそばのやみに眼をくばると、ふしぎ! にも落ち残った葉を雨にたれた木立ちのかげに、同じ装束《しょうぞく》の四、五人がそれぞれ手を柄頭に整然とひかえている。
 通りがかりか、ないしは志あってか、この一団の火事装束、いま血戦の最中にこっそり邸内に忍び入って来たものに相違ない。
 夜陰《やいん》に跳梁《ちょうりょう》する群盗の一|味《み》!
 それが偶然にもこの修羅《しゅら》場に落ちあったものであろう。逡巡《しゅんじゅん》するはいたずらに時刻の空費と考えた栄三郎、躍動に移る用意に、体と剣に細かくはずみをくれだすと、機先《きせん》を制《せい》してくるかと思いのほか、正体の知れない火事装束の武士、あくまでも迎え撃ちにかまえて、揶揄《やゆ》するごとく一刀を振り立てながら、
「お手前は――? 坤竜かの?」落ち着き払った、老人らしい声音である。
 栄三郎は、ふたたび愕然《がくぜん》とした。
 自分と左膳とのあいだの乾坤二刀の争奪……誰も知る者のないはずなのに、この、突如としてあらわれた異装の一隊は、そのいきさつを委細《いさい》承知《しょうち》してわれからこの場へ踏みこんできたらしい口ぶりだ。
 何者かはわからぬが、容易ならぬ一団!
 ことに、いま栄三郎と立ち合っている恰幅《かっぷく》のいい侍はその首領とみえて、剣手体置きすべてが世のつねの盗人とは思われ
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