て行った。あとで女と久兵衛と番頭が、顔を見合わせて笑った。がすぐに女が言い出したことには、山分けにして百両の小判を貰って行っても、裏長屋では使うこともできないから、小さいのに崩してくれとの頼みだった。もっともだというので、さっそく店じゅうの小銭を集めて、それだけ持たして女を送り出したのだったが――この甲府の大家の置いて行った小判というのが、巧妙なにせ[#「にせ」に傍点]金だったから、兼久は女に細かくしてやっただけ百両の損をして、そのうえ二百両のにせ[#「にせ」に傍点]金を背負《しょ》いこんだわけだった。
ところが、そもそも甲府の家主と名乗る男が兼久へその話を持って来たということを聞き込んだ時から、早くも怪しいと睨んでいた早耳三次が、絶えず馬喰町の相模に張り込んで、この日もそっ[#「そっ」に傍点]とあとを尾《つ》けて来ていたので、男が質屋から小銭をさらって出てくる女と物かげで落ち合っているところを難なく捕って押さえた。はじめから二人で仕組んだ芝居で、男も女も名代の仕事師だったが、驚いたことには女はあの豆店の源右衛門を痛めつけた小判づくりの女だった。
あの時の子役は借りものだったという
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