ことを申し上げたそうで、どうも、お聞き流しを願います。これが知れましては私は大罪人、お情をもって御他言なさらないように――。」
「お前さん顔に似合わねえ凄いことをしなさるなあ。いや、人には話さないから安心しなさい。」
 こう言って源右衛門が大きく胸を叩いて見せると、女はそれから打ちしおれて、るる[#「るる」に傍点]として自分の素性なるものを物語った。
 それによると女は、日本橋のさる老舗の娘などと言ったのは嘘の皮で、じつはこうやって方々の貸家を移り歩いてはにせ[#「にせ」に傍点]の小判を造っている女悪党だとのことだった。これにはさすがの源右衛門も胆《きも》をつぶしてしまったが、それよりも彼の驚いたのは、女の拵《こしら》えた小判が、どこへもって行っても立派に通用するという事実だった。それを女に言うと、もうすっかり本性を出した女は、立膝かなんかで、源右衛門の煙管《きせる》を取り上げてすぱりすぱり[#「すぱりすぱり」に傍点]とやりながら、
「あい。それがあたしの手腕《うで》でさあね。もとは銅《あか》なんだけれど、ちょいとしたこつ[#「こつ」に傍点]で黄金《こがね》に見えるんだよ。あたしはこの術を切支丹屋敷《きりしたんやしき》の南蛮人《なんばんじん》に聞いたんでね。道具がちっとも揃ってないから、いくらかちかち[#「かちかち」に傍点]急いだってひと晩に一枚しきゃできやしない。ほんとにじれったいったらないのさ。」
 これで源右衛門は二度びっくりして、
「道具がなくてひと晩に一枚しきゃできない? すると道具が揃えばひと晩にもっとたくさんできるのかい?」
 女はすましていた。
「そうたくさんもできないけれど、まあ、十枚や十五枚はねえ。」
「そりゃ豪気《ごうぎ》だ!」
 と思わず源右衛門が大声を出すと、女が手を振った。
「いやですよ、この人は。人に聞えたら私が困るじゃないか。」
 源右衛門は頭を掻きながら膝を進めて、
「そ、その話はほんとかね?」
「だれが嘘を言うもんか、あたしの暗いところじゃないの。」
「で、その拵《こしら》える道具ってどんな物だね?」
「道具じゃない、機械だよ。」
 と、女は答えて、源右衛門の出す紙と矢立《やたて》を取って、その、銅の板から小判を造りだすという南蛮伝授の機械なるものを図面にして画《か》いて見せた。そして、自分は委《くわ》しく聞きもしたし、細工物は手
前へ 次へ
全12ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング