乃蛮《ナイマン》征伐第一の朝だ。ああ愉快だ。合爾合《カルカ》、おれは昔の羊飼いに返って、羊の群れを番するように、一晩君の身体を守り通したのだ。
合爾合《カルカ》姫 (寝台に起き上り)成吉思汗《ジンギスカン》さま! あなたの真意は、よく解りました。それほどの深いお心とも知らず、妾はあなたを刺すつもりで――。(と懐中の匕首を抜き放ち、己が胸に突き立てようとする)
成吉思汗《ジンギスカン》 (駈け寄ってそれを叩き落す)何をする! 君が死んでは、僕の志は無になる。さあ、朝になった。いま木華里《ムカリ》に送らせますから、どうぞ、城中へお引き取り下さい。
合爾合《カルカ》姫 (じっと成吉思汗《ジンギスカン》を凝視《みつ》めて)妾の心が、恥かしゅうございます。いえ、良人|札木合《ジャムカ》のあなたに対する気持ちも、恥かしゅうございます。
成吉思汗《ジンギスカン》 いや、そう言われると、こっちが弱る。おれこそ恥かしい。白状するが、おれは初めは、決して君を清く帰すつもりではなかったのだ。が、この天幕で二人きりになってみると、おれは、自分がもっと大きくならなければならないことを知った。いや、このおれは、も
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