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札木合《ジャムカ》 (崩折れて、断腸の思い入れ)おれは、おれは、なんという愚か者だ! おれは、おれの手で、掛け換えのない珠玉を壊してしまったのだ――。(と突っ伏す)
成吉思汗《ジンギスカン》 (ぐっと起つ。悵然と屍骸を見下ろして、長い間)合爾合《カルカ》は死んだ。合爾合《カルカ》を殺したのは――成吉思汗《ジンギスカン》の向うところ、砂漠の風さえ避《よ》けて通るに、この一輪の散る花を、人間の力では止め得なかったか――夢だ、砂漠の夢だ――。
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台察児《タイチャル》は居崩れて、嫂《あね》に弔意を表する。喇叭《らっぱ》の音は刻々遠のき、消えんとしている。露台の外、遙かなる抗愛山脈の山峡に、成吉思汗《ジンギスカン》軍の白い旗印が九本、ひらひら靡《なび》いて登って行くのが小さく見える。幕。
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底本:「一人三人全集1[#「1」はローマ数字、1−13−21]時代捕物釘抜藤吉捕物覚書」河出書房新社
1970(昭和45)年1月15日初版発行
初出:「キング」講談社
1934(昭和9)年7月
※林不忘名義の底本に収録されていますが、発表時の署名は牧逸馬です。
※改行行頭の人名、人物、時代は、底本では、ゴシックで組まれています。
※ト書きは、底本では、小さな文字で組まれています。
入力:川山隆
校正:松永正敏
2008年5月20日作成
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