りでも何でも、これが真心《ほんしん》でございますよ。きょうあの二百五十両の借りというひょん[#「ひょん」に傍点]なことから、三年ぶりにお前さまにお眼にかかって、お前さまはあの借りを帳消しにしてくださいましたし、わたしはお前さまが持って出た二千両を今あらためてさしあげましょうと申しているのでございますから、もう両方に何のいいぶんもないはずでございます。
 でございますから、どうかこのうえは、わたしに去り状をくださりませ。そのうえで、はっきり申し上げたいことがあるのでございます」
 お高は、いつのまにか真っ蒼な顔になっていた。

      六

「なに、三下り半をよこせってえのか」
「はい。さようでございます」
「読めた。そいつを取ったら、大いばりで、あの若松屋へ乗りこんで、めくら野郎といっしょになろうてんだろう」
「いいえ、そのまえに、お前さんから離縁状を取ったなら、お前さんにしてあげることがあるのでございます」
「おれにすること? 何をしようというのだ」
「離縁状さえ渡していただけば、もう妻でも良人でもないのでございますよ」
「それはそうだ。そのための離縁状だからな。で、妻でも良人で
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