をせずとも、おれのところへ帰って来さえすれあ、ここは呉服屋だ。着てえ物は何でも着れるし――ほんとに、お世辞じゃあないが、お前《めえ》はこのごろずんと女っぷりが上がりましたぜ。あのめくら野郎がほれこむのもむりはねえのだ。もっとも、めくら野郎にはお前《めえ》の美しさがよく見えねえかもしれねえが――。
一度はおれも、なに、決して捨てたわけじゃあないが、ちょっとおめえを置きざりにしたことがある。それは許してくれよ。な、このとおり、掌《て》を合わしてあやまっているのだ。ははははは、いや一度別れた女だけに、他人《ひと》のものになりかけているのを見ると、いっそうほしくなってきたのかもしれねえ。うむ、それが本当のこころかもしれねえ。これからはおれも、まじめにかせいで埋めあわせをするつもりだ。おめえに楽をさせるつもりだ。だからよお高――」
なめらかにほほえみながら、つと手を取ろうとしたので、お高はぎょっとして手を引っこめた。
「いやですよ。もうそんなこと聞きたくもありませんよ。それより、おせい様ははじめわたしをお前さまの妹だと思って、そう御挨拶をなさいましたよ。お前さまには、妹さんがおありでございま
前へ
次へ
全552ページ中85ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング