く近く半鐘が鳴って火消しが集まりつつあった。場所が祭の雑沓なので、騒ぎは倍にも三倍にもなった。
お駒ちゃんは、その天人姿の扮装《ふんそう》のまま舞台をいったり来たりして走りながら、叫ぼうとしてけむりにむせる。お駒ちゃんは、下の土間に立って、人にはさまれて袖で口をおおっている磯五を見たのだ。磯五は茶人のような頭巾を脱いだことがないので、どこにいてもすぐ眼につくのだ。磯五は、左右に一人ずつ女を抱きかかえて、きちがい犬のように見にくく取り乱してあちこちよろめいていた。
お駒ちゃんは一瞥《ひとめ》でその二人の女をみて取った。それは磯屋のお針頭のおしんと、もう一人の若いほうは、小間使いのお美代であった。お美代は、小間使いというよりも、お駒ちゃんが磯屋を出たあとは、おおびらに磯五の妾《めかけ》のようになっている女であった。おしんは、以前《まえ》から磯五とそういう交渉があって、お駒ちゃんのいたころから、お駒ちゃんとおしんのあいだには、いざこざが絶えなかったものだ。
がお駒ちゃんは、いまその女たちのことをどうこう恨みがましく考えているのではなかった。ただ、お駒ちゃんがよく見ると、磯五がおしんとお
前へ
次へ
全552ページ中523ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング