みた。金雀枝の花には、何のにおいもしないのだ。お高は、それがおかしいようにくすくす笑って、それから、その、ひとり笑いに気がついて急にまじめな顔をつくって、雑賀屋の寮の門をくぐった。
おせい様は、いそいそと迎えてくれた。思ったとおり、磯五はまだ逗留《とうりゅう》しているとのことだったが、そのときは、家にいないようすであった。おせいとお高は、すぐおせい様の居間へ行って、女同士の長ながしい挨拶《あいさつ》を済ました。
「おことばに甘えてまた押しかけて参りましてございます」
お高がいうと、おせい様は、心《しん》からうれしそうににっこりした。
「ほんとに、そうしてお気が向いたときに、いつでもおいでになるのがようございますよ。磯五さんのお従妹さんですもの。ここは御自分のおうちとおぼし召して、何の遠慮もいらないのですよ」
「江戸のごみごみしたところから来ますと、ほんとにせいせいいたしますこと」
「ほんとでございますよ。江戸は、どんなに閑静なところでも、どうしてもごみごみした気もちがしますからねえ。こんどは長く泊まっていらっしゃいましよ」
おせい様は、お高に庭を見せるために、立って行って、半分し
前へ
次へ
全552ページ中399ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング