、でも、心配おしでないよ。悪いことじゃないんだから。あたいはいま磯屋の人間さ」
「ふん、妹でもねえものが、妹という触れ込みでな。これはいってえどういうわけだ」
「それはね」と、お駒ちゃんはごまかすように、「商売上、そうしておかないとぐあいのわるいことがあるからさ」
「てえげえ察しがつかあ。おいらの主人のおせい様をだまそうてんだろう。磯屋の旦那はおせい様といっしょになるんだってえじゃあねえか」
「そうだとさ」
 お駒ちゃんはためらって答えた。
「そうだとさって、よく知らねえのか」
「よくは知らないやね。人のことだもの」
 お駒ちゃんがいやな顔をすると、久助は、せせら笑いながら突っこんだ。
「人のことって、兄貴のことじゃあねえか。それあそうと、おめえが磯屋さんの妹ってえのが、おれにあまだ腑《ふ》に落ちねえ」
「いいじゃないか。そんなことうるさくきかなくったって。おせい様は、呉服太物の商売には、流行《はやり》の色や柄を見る、女の眼が光っていないと、安心しないんだとさ。だから、磯屋さんは、そんなことに眼のきく妹があるっていってしまったの。だから、あたいがちょっと頼まれてその妹になっているのさ。
前へ 次へ
全552ページ中280ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング