しくなってきた。お高は、またそっと部屋を出て、縁から庭|下駄《げた》をはいて、庭へおりた。
 土が、しめっているのだ。うす陽が、梅の木を照らしているのだ。梅の木には、花があった。おそい蕾《つぼみ》もあった。蕾は、むすめの乳首のようだ。お高は、その薪《まき》のような梅の木にも、そんな萠《も》える力があるのかと何だか恥ずかしいような気がした。
 肩が重く意識されてきた。小雨だ。朝から、日照り雨が渡ってるのだ。一雨ごとのあたたかさが、来るのだ。そこにも、ここにも、春のにおいがある。お高は、鼻孔をふく雨をすいこんで、それをかいだ。
 濡れるのもかまわず、その香をむさぼって、あるきまわっていると、離室の雨戸が繰られて、龍造寺主計の寝巻きすがたが、立った。
 龍造寺主計は、やっこ凧《だこ》のような、糊《のり》のこわい佐吉の浴衣《ゆかた》を、つんつるてんに着ていた。毛だらけの脛《すね》を出して、笑っていた。
 お高を見ると、そのまま縁側に腰をかけて、そばの板の間をたたいた。
「ここへ来て、掛けなさい。きのうの蜻蛉のはなしをして進ぜる」

      三

「あの、いま磯屋五兵衛と名乗っている男のこと
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