の火事を幸い、いっそ磯五さんを仲に、三人で心中するんですよ。無理心中ですよ。決して磯五さんを離しませんよ。ここで三人で死ぬんですから――」
 お駒ちゃんは、せめて磯五だけでも助け出したい、助けなくてはと思って、その磯五にしがみついているおしんとお美代にかぶりついて行ったのだが、ふたりは、まるで女とは思えない力で磯五を抱き締めていて、お駒ちゃんにはどうすることもできなかった。
 磯五は、ほう、ほうというような、鴎《かもめ》の鳴くような声を絞って、二人の女を振り切ろうとしてあばれていた。それは、火の中で独楽《こま》がまわっているように見えた。
 お駒ちゃんは、じぶんが死にそうになるので、磯五のかたわらを離れて小屋のそとへはい出したのだが、お駒ちゃんが最後に見たものは、おしんとお美代にがっしとおさえられて、火煙の中から柱のように首を伸ばしてもがいている磯五の顔であった。

      五

「すると、その駒と申す女《もの》は、助かったのか」
 忠相がきくと、木場の甚はうなずいて、
「さようでございます。助かりましてございます。じぶんでは、まるで夢のようで、何事もとんと記憶《おぼ》えておりませぬそうでございますが、おりよく父親《てておや》の久助と申すものが、娘の舞台を見ようとして来かかる途中から火事を知りまして、いそいで駈けつけ、小屋のすぐそとに煙《けむ》に巻かれて倒れているのをやっと間に合って助けましてございます」
「それは、よかった。いやしき女ながら、心がけのよいものである」
「さようでございます。焼け死んだのは三人でございます。男女の別も判《わか》りませぬほど、焼けただれておりますが――」
「ふむ、その無理心中の三人であろう、女どもは、心柄とはいい条、可哀そうなことをいたしたな。日本一太郎はいかがいたした?」
「さ、その日本一太郎でございますが、屍骸《しがい》はもとよりございませんし、屍骸がないくらいでございますから、助かったには相違ございません。が、火事以来、どこへも姿をみせませんので」
「探すな」
「はい」
 忠相はふたたびほほえんで、
「それとも、探し出して、そちと突き合わせてやろうかの」
「は?」
「いや、よそう。そちが困るであろうから」
「へへへ、お殿様、御冗談で」
「冗談ではないぞ」
「御冗談ではございません、といたしますと?」
「いって聞かそうかの」
「どうぞ。承《うけたま》わりとうございます」
「日本一太郎は、死んだのじゃ。近く死ぬようなことを申しておったに相違ない。死んだことにしておけ」
「は」
「死んだほうがよいのじゃ。高とやら申す、その娘のためにも」
「なぜでございましょう」
「父らしゅうない父であったことを今さとって、恥じているからじゃよ。しいて愛情を殺して、娘にもよそよそしくしておったことであろう。娘の妨げにならんように、身を隠したかったに相違ないな。
 死んだものじゃ。すておけ、すておけ。身を殺し、また、娘の悪夫を殺して俗に申す腐れ縁、それから娘を解き放したのじゃよ。見上げた分別じゃ。ほめてやれ。が、ほめてやりとうても、仏であったな。あははは、拝んでやれ」
 木場の甚はにっこりして、その笑顔を隠すためのようにうつむいた。が、忠相は、すばやくみつけて、
「笑いおるな、そろそろ参るぞ。よいか。ここにひとり、白髪《しらが》あたまの、他人《ひと》の頭痛を苦に病むことを稼業《しょうばい》にしておるおやじがおると思え」
「へ」
「日本一太郎と計らって、はじめから筋を編んだな」
「――」
「まず、日本一太郎の手品というに眼をつけたな」
「――」
「つぎに祭である。もってこいじゃ。そのおやじは香具師《やし》の縄張《なわば》りなどにも顔のきくところより、日本一太郎を後見し、自ら太夫元《たゆうもと》となって祭の境内に一小屋あけるな」
「――」
「日本一太郎とは、はじめから手はずがついているのじゃが、待てよ、その日本一太郎は、昔しりあいの女子《おなご》に会うて、それがまた娘の良人にたぶらかされたと聞いて、こりゃ怒りを大きゅうしたかも知れぬな。むりもない。
 いよいよ、おやじめと取り決めた計略を行なわんと、いっそうこころをおどらして、それとなく、娘の夫なる者にも来観を依頼する」
「――」
「その者は、己《おの》れの手先、おのれの味方と信じておるから、謀《はか》られるとは知らず、大いによろこび、総見の気で、女子ふたり引きつれて初日に出かけたといたそう。筋書きどおりに、火を失したな。しかも、その者は筋書きどおりに焼死いたしたのじゃ、さすがは日本一の手妻じゃ。日本一、日本一、面白いぞ」
「恐れ入りましてございます」
「何も、そちが恐れ入ることはない」
「いえ、恐れ入りました」
「そうか。恐れ入ったか」
「恐れ入りました。が、二つほ
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