かけに、木場の甚が来ていた。お調番所へ名前を通して、ここで待っているのだ。呼び出しを受けて、続々|関係《かかりあい》一同があつまって来る。
若松屋惣七、龍造寺主計、おせい様、一空和尚につれられたお高、お駒、お駒の父の久助などが急に召し出しを受けて、みな不審そうな顔をあつめて、黙りこんでいた。重々しい空気に押されて、ひそひそ話もできかねるのだ。
お高は、小石川の上水へ身を投げたのが、金剛寺門前町の和泉屋の者に助けられて、一空さまのところに届けられていたのだ。そこへ、南の奉行所から差し紙が来たので、一空さま差し添えで蒼《あお》い顔を見せていた。
ちらちらと若松屋惣七のほうを見ると、若松屋惣七は、血の黒く固まった眉間の傷を見せて、何か低声《こごえ》に龍造寺主計と話しこんでいた。ふたりは、ちょっとにしろ、斬ったり斬られたりしたことなどはけろりと忘れて、もと以上に親密になっているようすだった。
龍造寺主計は、一番平然としていた。何事もなかったように、ちょいちょいお高を見て、その鬼瓦《おにがわら》のような顔をしきりにほほえませていた。
おせい様は、お駒といっしょに、久助を左右からはさむように押しならんで、心細そうなようすだった。それとも[#「それとも」はママ]うつむいてめいめいの手をみつめていた。
一空さまと木場の甚が丁寧にあたまをさげ合った。お高も、それで気がついて、木場の甚に挨拶した。
むこうを、遊び人風の男につれられた若い女が、町内の多勢《おおぜい》にかこまれて何か慰められながら、泣き泣きお白洲《しらす》から下がって来た。おもてには、御門番と争う大声がしていた。六尺を持った同心や、書類をかかえた与力たちが、袴《はかま》を鳴らして右往左往していた。あわただしい奉行所の真昼だった。
お高は、控え所の窓へ眼をやった。窓のそとには、白い空があった。雲の峰が立っていた。それは、すくすくと高い雲の峰であった。お高は、何の形に似ているかしらと思って見ているうちに、その雲の峰が非常にいい兆《しるし》のように思われて来て、じぶんの一生と、じぶんの中に発育しつつある小さないのちの前途が、このうえなくかがやかしく約束されているような気がした。[#「気がした。」は底本では「気がした」]お高は、こころの奥で掌《て》を合わせて、雲の峰を拝んだ。
ふと振り返ると、若松屋惣七も、その雲
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