「しきりにむごいというが、何もむごいことはあるまい。お前にも、わしの気もちはわかっておるはずだ。おれは、戦っているのだ。お前を求める心と、おれは戦っているのだ。金と若さと美しさがあって何でもできるお前が、このおれのような、近ごろは商売もふるわぬ金貸しに一生しばられて動きの取れんことになっていいという法はない。あはははははは、おれはこれでも、自分を知っておるつもりだよ」
「何をおっしゃるのでございます。旦那様は、高を苦しめ、高を嘲弄《ちょうろう》なすっていらっしゃるのでございます。もしまた、御本心から高の財産がお眼ざわりになっていっしょになってくださらないとおっしゃるのでございましたら、それこそ、つまらないことにわずらわされておいででございます。
どうぞ、そんな添えものをごらんにならないで、高をごらんなすってくださいまし。ほんとうに柘植《つげ》の財産がお気に召さないのでございましたら、高は、惜しくも何ともございません。すぐすてますでございます」
「いかん。そういうことはならぬ。お前とおれは、何というても、これぎりのものだよ。どうにもならぬのだ」
「旦那様は、世間のおもわくばかりお考えでございます。そんなことより、もっと――」
「いいや、どうにもならぬ」
若松屋惣七がいい切ったとき、縁の障子のかげから、龍造寺主計があらわれた。龍造寺主計は、血相を変えていた。龍造寺主計は、刀を抜いて持っていた。
「若松屋。聞いておるとじりじり致すわ。話のわからぬやつだな。何ゆえお高どのをいれぬのだ」
「龍造寺どのか。貴殿の知ったことではない」
若松屋惣七が顔を向けると、龍造寺主計は、気が短いのだ。かっとして、若松屋惣七の顔へ刀をふりおろしたのだ。刀は、惣七の額部《ひたい》をかすめて、むかし女のことで惣七が眉間《みけん》に受けた傷のうえにもう一つ傷を重ねて、血が流れたのを、お高は見た。
同時にお高は、庭のむこうに一空さまが立って、じぶんを呼んでいるような気がして、
「はい」
と叫んで、はだしで戸外へ駈け出ていた。駈け出しながら、そして子供のように泣きながら、お高がちょっとふり返ってみると、龍造寺主計は、刀をぶら下げて、顔をゆがめて、ぼんやり惣七を見おろして立っていた。若松屋惣七は、ひたいの傷を懐紙でおさえて、端然とすわっていた。
五
数寄屋橋ぎわ、南町奉行所の腰
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