を転じてすわり直した。お高を受けとめようとするように両手をひろげたが、お高は、すこし離れたところにくずれてしまって、その手の中へはころげ込まなかった。
「いま滝蔵から聞いた。ここに帰って来ておったのだそうだな」若松屋惣七は、茶碗《ちゃわん》の糸尻《いとじり》をすり合わせるような、いつになく上ずった声だ。「知らなかったぞ。何しに帰って来たのだ」
「旦那様は、わたくしになど、もうお会いくださるお気もないのでございましょうけれど――」
三
「そうでもない。会いたくないくらいなら、何もこういそいで掛川からもどって来ることはないのだ」
「では、おあいくだすっても、どういうことになさろうというお気は、ないのでございましょう。そうなのでございましょう」
「どういうことにするとは、どういうことだ。愚かな、わけのわからんことをいうものではない」
「具足屋のほうはいかがでございますか」
「芽を吹いたどころか、みごとな花が咲いて、やがて、たいした実がなろうぞ」
「龍造寺主計さまが、ごいっしょにお帰りになったようでございますねえ」
「うむ。用もないが、ま、久方ぶりに江戸見物というところである。あとでお眼にかかるがよい」
「――」
「からだのほうはどうか」
「はい」
「一空さんから来書があって、それで急にもどって来たのだが、磯五が焼死いたしたというではないか」
「はい。父の手妻小屋の火事で、おしんさんと、それからお美代とか申す女と、三人で焼け死にましてございます」
「天命じゃ。が、いささかさびしい気もするな」
「そのうえ、あの人が火をかけたことになりまして、南の大岡様のお計らいで、火つけあつかいでございます。地所、家作は申すに及ばず、蔵から店の品物まで、そっくりお取り上げになりまして、いっさい、おせい様へお下げになりますのだそうでございます。磯屋の店はつぶれましてございます。せいせいいたしました。それに、おせい様も、何やかやと磯五にとられましたものが皆手に返ることになりまして――」
「それは、何よりであった。ところで、磯五がそうなってみると、お前も自ままじゃの」
「――」
「自ままじゃの」
「はい」
「――」
「旦那様」
「――」
「なぜそこまでおっしゃって、そのままお黙りになっておしまいになるのでございます。わたくしは、何をそんな、お気にさわるようなことをいたしましたろう?
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