ど手前にはまだわからぬところがございます」
「何がためにさような手品を考案いたしたか、また、何ものが都合よく火を失したか、この二点であろうがな」
「御意にございます」
「ついでじゃ。いって聞かそう。一に、その志《こころざし》を罰し、災《わざわい》を事前にふせぎ、世の禍根を除くため、であろうと、まず推測いたすな。縁を絶たれた名ばかりの妻も、若後家となって、良縁を求めて再嫁することもできるによって、まず、このほうも人助けかな」
木場の甚も、そばで黙ってきいてきた伊吹大作も、いつのまにか平伏しているのだ。
忠相は、庭の木もれ陽に眼を細くしながら、ひとり言のようにつづけて、
「が、火事は放《つ》け火であるぞ」
うめくようにいった。木甚はいっそう平たくなって、
「申しわけございませぬ。やり過ぎましたでございましょうか」
「火事は、放け火であるぞ」
「はっ」
「放け火は重罪。家財没収、家は没落じゃ。磯屋五兵衛の遺産いっさい、家屋敷、有り金、蔵の品、すべて取り上げるがよい」
「あの、磯五が放け火を――」
「さようじゃ。小屋に火を放ったのは磯五である」
「はい――して、その、お召し上げになりました磯屋の財産は」
「出したところへ返るのじゃ。拝領町屋の雑賀屋とやら申したな」
「恐れ入りましてございます」
「貴様にも似合わん。きょうはよく恐れ入る日じゃな。いや、法を用いずして、よく法を達してくれた。四方八方、届いた計らいじゃ。近ごろの会心事、礼をいうぞ」
忠相は、そのまますっとたち上がると、そっと裾《すそ》をけるように歩いて、廊下づたいに奥へはいってしまった。伊吹大作が、あわててつづいた。木場の甚は、敷居をなめそうにひれ伏していて、主従の去ったのも知らないようすだ。雪白の髷《まげ》が、鶺鴒《せきれい》の尾のように、こまかくふるえていた。そうしたまま、いつまでもうごかないのだ。
これより以前に、若松屋惣七は、東海道の旅をつづけて、掛川宿に着いていた。小田原、府中、まりこ、岡部、ふじ枝、島田、大井川を渡って、そこからまた駕籠《かご》、かなや、日坂、で、掛川である。太田摂津守五万三十七石の城下で、江戸から五十五里あまりだ。一本路の大通りだ。脇本陣具足屋は町の中ほど、眼抜きの場処にあるのだ。
若松屋惣七の駕籠が広い間口のまえにおりると陽がかんかん照って通行人がぞろぞろ歩いて犬が走っ
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