した奸悪《かんあく》な手段にまで言及したもので、完膚《かんぷ》なきまでに磯五をやっつけたものであった。
 第二の久助の訴状は、じぶんの娘のお駒と磯五の関係、磯五とおせい様の仲、おせい様をいいようにして金をせしめようとしている磯五の手段など、それも、色悪《いろあく》としての磯五の正体をむいたものであった。
 第三の一空和尚のは、若松屋惣七方の女番頭お高という女が、名義上磯五の妻ということになって縛られていて、そのため再縁はもとより、思うままに暮らすこともできず困っているからなにとぞお上の力でその縁を切って、お高を自由にしてもらいたいという、やはり色事師らしい磯五の悪辣《あくらつ》さを突いた文面であった。
 目安箱は評定所|五手掛《ごてがかり》の管轄で下役がひらいて、取るに足らないのはそのまま取りすててしまうのだが、あまりこの磯屋五兵衛という人物に関して重ねて投書があるので、取り上げになるかならないか、そこらの裁断を越前守に一任するとともに、三通の書き物をまとめて、そのまま南町奉行のほうへまわしてよこしたのだ。いわば市井《しせい》の雑事で、五手掛の役人は、もちろんとるに足らないと思ったのだろうが、この取るに足らない市井の雑事こそは、奉行越前守にとっては、天下の一大事であった。
 市井の些事《さじ》、奉行職の眼からはすなわち天下の一大事とみているのが、忠相であった。忠相は、何となくこの磯屋の一件が気になった。それは何も、表立った白洲《しらす》にかかっているわけではなく、どこといってつかまえどころのない、底にうごめいている暗流のようなものであったが、忠相は、そこに、早晩何らかの形で、事件として持ち込まれてくるであろう可能性をみたのだ。関係人物の立場とうごきとからみて、当然破裂しなければならない運命を予知したのだ。
 法は、法を用いざるをもって最上とし、取り締まりは、取り締まる必要のないように、ことを未前にふせぐのが、その任にあるものの分別である。忠相は、磯五のことが気になって、それとなく気をつけながら、おもて立った事件にならないうちに、何とか解決をつけようと試みたのだ。暗《やみ》から暗へ処分しさって、お白洲の砂のうえに持ち出させまいと考えたのだ。持ち出さなければならないにしても、その持ち出されたときには、できるだけ簡単なものになっているようにしたいと思った。
 忠相は、早く
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