も会いたがっておりませんでございますもの」
「ふーむ。柘植家の金のことを知っておって、お前を捜し出そうともせず、今までどこで何をしていたものであろう」
「それはわたくしも、はっきりは存じませんでございます。一空様も木場の親方さんも、誰もご存じないのでございます。父も、何も申しませんのでございます」
「妙なはなしだな。みたところ、さほど金に恬淡《てんたん》たる仁《ひと》のようにも思われぬが――」若松屋惣七は、眉を寄せてつづけた。
「何ゆえお前を人手に渡したか、そこらのところを話したかな?」
「はい。旅から旅へ歩くのに、赤児《あかご》をつれていては、手足まといになるとか――」
「して、お前をもらい受けた男が、相良寛十郎と名乗って、実の父になりすまして死んでいったわけは?」
「そのことは、父は何も申しませんでございます」
「ちとどうもくさい。ようすがおかしい」若松屋惣七は、うめくような声だ。「あの日本一太郎とやら、実の父御ではないかもしれぬ。どうやらわしは食わせもののような気がしてならぬのだ」
「でも」お高の額部《ひたひ》は、おどろきのため白いのだ。「何しにそんな、そんな――それに、一空さまも木場の親方も、わたくしの乳母であったというお婆《ばあ》さんも、みんな一眼見て、あれが実の父の相良寛十郎であるとおっしゃっておいでなのでございます。旦那様、皆がみな、そんな間違いをなさるはずはございませんですよ。あの日本一太郎という手妻《てづま》使いの人は、ほんとにわたくしの父なのでございますよ」
 若松屋惣七は、口を固く結んで、何もいわないのだ。
 かすんだ眼に異様なひかりがきて、土手をたどる杖が早くなった。片手を引いていたお高は、引かれるような恰好になって、いそいで出て、ならんだ。

      二

 雑賀屋のおせい様と歌子は、とうに上方へ発足したあとで、若松屋惣七と紙魚亭主人の麦田一八郎もすぐ追いかけて、途中でいっしょになって四人で旅することになっていたのだが、紙魚亭主人は、江戸から九里あまりほどある岩槻藩の大岡兵庫頭《おおおかひょうごのかみ》、二万三千石のお徒士組《かちぐみ》で、なかなかやかましい武士《さむらい》なのだけれど、発句《ほっく》をもてあそんだりして、酔狂なこころで酔狂な服装《なり》をしていることが好きであった。ことに江戸へ出てくると、町人とも宗匠ともつかない、不思
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