道の宿々をつぎつぎに下って行くのも、一興でないことはなかった。
お高と歌子が、そのぶらぶら旅にいっしょに行くことになった。若松屋惣七と麦田一八郎は、ひとまず金剛寺坂の家へ帰って、若松屋の仕事に一区切りつけて後始末をみてから、一足遅れて江戸をたつことになった。途中で追いつこうというのだった。女だけの三人旅でも、歌子という、武技にひいでた男まさりがついているから、安心であった。
若松屋惣七は、久しぶりに紙魚亭と歩いてもみたかったが、何よりも、掛川の具足屋に行っている龍造寺主計に会って、その後のようすを聞きもし、具足屋のふとりぐあいを見たかったので、これを機会に、五十三次をする気になったのだった。
ところが、あす発足という前の晩に、深川の木場の甚からお高のところへ飛脚が来て、探していた証人がみつかって、いよいよ柘植の財産の引き継ぎが決められなければならないから、大急ぎで来るようにという書面が届けられた。
ここまで話が進んでくると、木場の甚ばかりでなく、和泉屋の総本家のものとも会って、いろいろこみ入った相談にはいらなければならないのであった。それには、時を移さず、ふか川要橋の木場の甚の家へ駈けつけることが必要だ。
若松屋惣七は、さすがにお高のためによろこんで、すぐ江戸へ向かうようにせき立てた。おせい様といっしょに上方へ行けないのは残念でもあり、おせい様のことが気がかりでもあったが、しかし、歌子が同道するのだから、その点は心配しないでもよかった。
お高は雑賀屋の久助に送られて、夜道をかけて小石川へ帰った。その足で金剛寺の洗耳房に一空さまを訪れると、出て来た一空さまは、しばらく会わなかった自分の娘を迎えるように上きげんだった。それはいつものことだが、この一空さまの態度には、吉報といったようなものを包んでいるところがあった。一空さまの細い眼が、奥へ引っ込んで見えなくなっていた。
「江戸一、いや、日本一の女分限者の御光来じゃな」一空さまは、剽軽《ひようきん》に頭をさげた。
「いやめでたいことじゃ。生きた証人が出て来ましたぞ。お前さまのことを、ようく知っておるのだ。おゆうさんと相良《さがら》うじが大阪に仮寓《かぐう》のころ、あんたに乳をふくませた乳母《うば》じゃとかいう。だいぶんおゆうさんの気に入りだったとみえて、柘植家のことにはかなり通じておるのみか、今もいうとおり、あ
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