磯五自身のためにも、みなのためにも、彼男《あれ》は一日も早く殺したがよい」
 そんなことをいって笑った。聞こえないから、磯五は、平気の平左だったが、聞こえても、おそらく平気だったろう。

      三

 そのうちすこしずつお高にわかってきたことは、磯五が、あのいまお高にこようとしている莫大な財産をかぎつけて、それでこう急に、しつこくそばを離れまいとしだしたのではないかという懸念であった。
 どうして知るようになったのか、それが腑に落ちなかったが、もしあの財産のにおいをかいだものとすれば、お高を放すのが惜しくなって、ああして一度書いた縁切り状を奪い返したことも読めるのだ。内実はどうでも、表向き夫婦ということになっていれば、お高のものは磯五の自由になるに相違ないのだ。磯五のことだから、すくなくともそれまで、どんなことがあってもお高の身辺から身をひくまいとするにきまっているのだ。
 お高は、何ゆえ早くここへ気がつかなかったろうと迂濶《うかつ》に思えて、同時に、あさましい気もちがこみ[#「こみ」に傍点]上げてきた。そんな金なぞいらないと思った。考えてみると、はじめからほしくも何ともなかった財産なのだから、それにいま、磯五という銀蠅《ぎんばえ》か黄金虫《こがねむし》のような男がくっついてきて、それと争わなければならないようなことになるなら何もほしくない。いっそ母の金など一文も手にはいらないほうが、さばさばしていてどんなに気持ちがいいか知れないと思った。
 が、一方そういったものでもなく、母の金は当然受け継いでおいて、磯五のほうこそいかなる方法でか振り切るべきではないかとも、考えられた。そしてそれには財産がきたらその中から、相当の額《もの》をやって追っ払うのが一番いい。そういうことにしましょうとお高は決心した。
 若松屋惣七とも、たびたび談合した。
「どういうことになるのか、わしにもわからぬ」
 若松屋惣七は、珍しく悲痛な調子だ。若松屋惣七が悲痛な調子になると、よく見えない眼が白っぽくきらめいて、顔の傷がくっきり浮き立ってくるのだ。それがいつもお高の哀感をそそって、若松屋惣七の顔を見られなくするのだ。
 お高は、この方はやっぱり自分を思っていてくださる。そして自分も、旦那様を愛しているのだ。愛しているとはっきり気がつかないほど、心の底の深いところから愛しているのだ。そんな気
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