のとき磯五がいった、お高がおせい様の証文を持って来て、交換に、離縁状を取って行ったということやなどを確かめてみようかとも思ったが、それは、お高の気もちがもっとわかるまでいわないことにした。
 しかし、証文を破いている磯五を、お高が、磯五がじぶんにしたように打って、そこは、お高が自分の仕返しをしてくれた形になっているのが、若松屋惣七は、愉快だった。で、お高を見ている彼の顔に、微笑がひろがった。
 が、お高は磯五から縁切り状を取って、晴れてじぶんのところへ来られるからだになっているのに、そして、そうでなくても、どうしても自分のところへ来なければならない事情が、お高のからだにできているのに、なぜ今になってこんなことをいい出すのだろうと、すぐ暗い表情になった。
 若松屋惣七は、佐吉だったか滝蔵だったか、金剛寺の一空さまからふと聞いてきた、お高に家を継ぐ金がはいろうとしているという、夢のような話を思い出して、それが、若松屋惣七をにっこりさせた。
「お前は近くたいそうな金持ちになるという評判だが、それで、もう若松屋へ帰らぬ決心をしたというわけかな」
「いいえ、そんなことはございません。お金持ちなどと、考えてもいやでございます。それも、いろんなむずかしいことがございまして、証人がいるとか何だとか、くさくさすることばかりでございます。お金も、くるかこないか、当てにならないのでございますよ」
「では、どうするつもりなのだ」
「どうするつもりって、何も考えておりませんでございます」
「その金が手にはいれば、一生食うに困らんというわけだな」
「はい」
「なぜもっと詳しく話してくれんのだ」
 お高は、まだ決まりもしない財産のことを話すのがいやであった。気恥ずかしかった。話すのはいいが、財産がこなかった場合のことを考えると、うれしがっていてはずれたように思われるのが、たまらなかった。また、まだ手にしないうちから話しても、誰も信じてくれる人がないようにも思えた。彼女じしんまだぴったりと現実のものに考えられないことを、どうして人に、夢でないように伝えることができるであろうかとあやぶまれた。
 で、いっさい黙っていることにしたのだが、若松屋惣七にだけは、だいたい話しておきたいような気もしたけれど、しかし、同じ理由からやはり黙っていることにした。
「いったい、いつはっきりわかるのか」
 若松屋惣七が
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