ちも察して、黙っていた。黙っていると、一空さまはつづけて、寛十郎は完全におゆうを失望させたと話し出した。
「それはそれは、湯水のように金をつかったものじゃったよ。わしは、そのときはもう出家しておったが、そばで見てもはらはらさせられた。もっとも、いかに贅沢《ぜいたく》をしたところで、一代や二代でつぶれる財産ではないのだが、宗庵に教育されたおゆうさんは、寛十郎のようにしたい三昧《ざんまい》に金をついやすことは大きらいであった。おゆうさんは、よくわしをたずねて来て、こぼしたものであったよ」
二十年前の記憶がすっかり一空さまをとらえているのだ。お高は、知らなかった父母の生活を、眼のまえにくりひろげられて、知らなかったほうがよかったような気がした。両手で顔をおおって、それでも、全身を耳にして、一空さまの言をとらえようとしていた。
「一度などは、大金というべき額の金をさらって、姿をくらましたことがあった」
「あの、父が、でございますか」
お高は、金を持って逃げたと聞いて、すぐ磯五のことを思い出した。むかし母があったと同じ眼に、じぶんもあったのだ。母娘《おやこ》が、同じ人生をくり返しているのではなかろうか。そういうことがあるものであろうか。お高は、運命の恐怖といったようなものを感じて、身内がしいん[#「しいん」に傍点]となった。
「さよう」一空さまが、答えていた。「金を持ち逃げして、京阪《かみがた》のほうへまいってな、ほかの女といっしょになっておった。それから、何でも一旗あげるとか申して、江戸へ帰って来たのじゃが――いや、よそう。あんたの前で亡《な》き父御《ててご》をののしるようになる。面白うない。わしも、気が進まん」
一空さまは、思い出したように哄笑《こうしょう》して、お高を見た。
九老僧
一
そのころから、一空さまは諸国の禅林をまわって、相良寛十郎はもとより、おゆうとも音信不通であったというのだ。おゆうの死んだことは聞いたが、それ以後いっそう、寛十郎に対する一空さまの関心は消えて、ふたりのあいだにお高の高音というものが残されたことまで、今まで知らなかったというのだ。
が、あの莫大なおゆうの財産は、一空さまもときどき思い出して、どうなったであろうと思っていた。しかし、和泉屋がその一部であるという事実は、忘れるともなく忘れていたのだ。それが
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