女の着物がうごいたので、磯五は、足をとめた。それは、多勢いる小間使いのひとりで、見なれない若い女であった。若い女も、そうして近いところで磯五を見るのは初めてであったが、これが旦那様であろうと直感して、固くなって、そこへ出てきた。耳たぶを真っ赤にしている、うつくしい娘であった。磯五は、その顔をのぞくようにして、荒いことばを使った。
「こんなところで何をしているのだ」
「はい」娘は、おどおどした。「笹《ささ》をとってくるようにとお咲さんにいいつけられまして――」
「笹を? 笹は何にするのだ」
「はい。なにやらお煮物の下に敷くのだそうでございます」
「そんなら、笹は裏にある。こんなところへ来てはいけない。ここは、おもての者以外きてはならぬのだ」
「はい。昨日上がりましたばかりで、まだちっとも勝手が知れないものでございますから――」
「よろしい。行きなさい」
 娘がおじぎをして去りかけると、ぱっちりした磯五の眼に、露骨な興味のいろがうかんだ。その視線は、逃げるように行く娘の足どりにからみついた。
「これこれ、お前は何というのかね」
 庭木のむこうから、娘の白い顔が答えた。
「はい。美代《みよ》と申します」
 磯五は、うなずいて歩き出した。いま、樹のあいだに消えて行ったお美代のすがたが、網膜の底にのこっていた。お美代は、やせて、肩などまだ肉の乗らない、皮膚のいろのわるい娘むすめした女であった。しかしお美代の顔だちは、めずらしくととのったものであった。
 磯五は、女の美醜を見さだめる点では、天才であった。石や瓦《かわら》のなかから、つねに玉を発見するのであった。あのお美代は、化粧と着物によっては、立派に見られるものになると磯五は思った。何かの役に立つであろうから、そっと眼をつけていようと思った。

      四

 磯五が居間へはいって行くと、江戸紫というのに古代むらさきの染めを注文したお駒ちゃんが、京から届いてきたその布《きれ》をぼんやりながめて、困ったようにすわっていたので、お駒ちゃんが磯五の妹であるというでたらめは、おせい様ばかりでなく、いまでは店の者のあいだにも、いいふらされていた。
 磯五が上方から帰ってこの磯五の店を買いとったとき、江戸に残しておいた妹がおちぶれているのを見つけて、助け出して店へ入れたというのである。そして、それ以来、店のことはいっさい妹のお駒ちゃ
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