、死が待っていたのだ。女のまことが、赤く咲いてもいたのだ。
 おせい様の金のほうは、ひとまず片づいたのだろう。ひと月ほどして、東海道掛川宿の龍造寺主計から、急飛脚が、金剛寺坂の若松屋へ駈けこんだ。おおいに見込みがあると思うから、思いきり金を入れる、安心していいという文面だ。若松屋惣七は、もうすっかりそんな商人らしいことをいう龍造寺主計に、遠くから微笑を送った。

      五

 龍造寺主計が掛川へ発足する前の晩であった。お高は、若松屋の屋敷内の自分の部屋で、縫い物をしていた。何だか、妙にむしむしする日であった。それが、妙にむしむしする晩にかわろうとしていた。お高は縁の障子をあけ放して、そこからくる夕ぐれの光で、針をうごかしていた。金剛寺の鐘がかすかに空気をゆり動かして、きこえてきていた。金剛寺坂をさわいでゆく、子供たちの声もしていた。
 お高は、かるい頭痛をおぼえていた。からだじゅうの肉が、骨からばらばらに離れて、落ちていくような気もちであった。このごろの心労が、お高の顔に、大きく書かれてあった。うすれてゆく陽の色が、ちょっと室内を赤くしたり、また、たちまち暗くしたりした。
 おせい様の取り立てごとが一段落ついて、お高は、はじめてじぶんのことを考える余裕を持っていた。しかし、将来を思ってみても、こういう生活の連続のほか、何もないような気がした。すこしも、楽しいこころにはなり得なかった。
 人がはいって来たので、そっちのほうへ向けたお高の顔は、蝋細工《ろうざいく》のように澄んで、生気がなかった。口のまわりに、このあいだまでなかった皺《しわ》のようなものが、かすかにできかけていた。
 はいって来たのは、龍造寺主計であった。龍造寺主計は、お高を見ると、びっくりしたふうで、いった。
「どうなすった。顔いろがよくない」
「さようでございますか。じぶんでは、何ともございませんけれど」
「何ともなければよいが」龍造寺主計は、敷居ぎわに腰をおろして、縁へ足を投げ出した。「できましたか」
 それは、お高の縫っているもののことであった。お高は、あした旅立つ龍造寺主計のために、肌襦袢《はだじゅばん》を何枚も縫ってやっているところであった。
「もうすこしでございます。こんなに着がえがございますから、たびたびお着かえなさらなければいけませんよ。あなた様のように、一つをいつまでも着ていらっ
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