を合わせて、左手の爪《つめ》で刀刃《とうじん》をはじくのである。また、ときとして、こぶしをつくって、刀身のあちこちを、かるく打ったのである。
 すると爪にはじかれたうす刃は、かすかに、微妙なひびきをつたえる。こぶしでたたかれた刀身は、その箇所《かしょ》によって、ふとく細く震動して、単調なようで複雑な、複雑なようで単調の音波を、空《くう》へむかって発するのだった。それを、龍造寺主計は、早く、おそく、強く、よわく、上に、下に、いろいろに、刀身を握ったり、指をかけたりして、たくみに調節しているのである。
 龍造寺主計は、そうして文字どおりに、剣を弾じているのだった。剣は、打々《ていてい》と、錚々《しょうしょう》と、きつきつと、あるいはむせぶがごとく、あるいは訴うるがごとく、あるいは放笑するがごとく、あるいは流るるがごとく、立派に、弾奏の役目をつとめているのである。この、龍造寺主計の刀は、ただ非常に薄いばかりでなく、何か特別のつくりででもあるのであろうか。
 龍造寺主計は、はじきながら、打ちながら、刀身の上下を押えて、震幅を加減し、うっとりと眼をつぶってまた歌い出していた。
「きんらい酒にあてられて、起《き》つねにおそし。臥《ふ》して南山《なんざん》を見て、旧詩をあらたむ」
 お高は、笑いだしていた。
「ほんとうに、結構でございます」
 龍造寺主計は、かたなの爪《つま》びきをつづけながら、また口をひらいた。こんども詩《うた》かと思うと、今度は、ことばであった。
「若松屋惣七どのはたずね人の助力など、なさらぬかな」
「それは、なさらないことは、ございませんが、どういう筋あいでございましょうか」
「ぜひわたしに手をかして、この江戸で、人をひとりさがし出してもらいたいのだ」
「さようでございますか。お身内の方でも、行方知れずになったのでございますか」
「いや。さようなわけではござらぬ。さがし出して、この刀に、血塗らねばならぬやつなのだ」
「はい。そうしますと、かたき討ちでございますか」
「仇敵《かたき》うち――といえば、かたきうちだが、かたき討ちでもない」
 このやりとりのあいだも、龍造寺主計は、つるぎのつま弾きをやめないのだ。伴奏入りの会話なのだ。
「すると、どういうことなのでございましょうか」
「人殺しをした者です」
「それでは、御公儀へ、御訴人《ごそにん》なすったほうが、お
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