ちをあえぎあえぎ登ってきたのだと、しきりに、そんな気がいたします」
磯五は、膝のうえに両手をさすって、うつむいてそういった。おせい様が、ほっと熱い息をした。それは、羽毛《はね》のかたまりのように、やわらかく磯五の頬に当たって、散った。
おせい様は、わきを向いて、ほかのことをいった。感情の張り切った声が、かすれて、ふるえているのだ。
「こんど、お駒さんをここへお招《よ》びして、きょうのうめ合わせに、三人で御馳走《ごちそう》をいただきましょうよ。このごろ、いい料理番《いたば》が来ているのですよ。庖丁《ほうちょう》からお配膳《はいぜん》まで、ひとりでしないと気のすまない、面白いお爺《じい》さんでございますよ」
磯五の顔が、おせい様の顔に、寄って行った。おせい様の胸に、すこし残っている火がいま、おせい様の眼から、燃えぬけているに相違なかった。その、ほらほらと燃えあがる眼に、磯五の白い顔が大きくうつった。この、涼しい瞳《め》をしたやさ男が、そっくりじぶんのものなのだと思うと、おせい様は、胴ぶるいがした。
中庭のむこうの土蔵の影が、ながく伸びてきていて、座敷のなかは、うす暗かった。磯五は、起って行って障子をしめ切って来た。
お高は、若松屋惣七が、まだ帰ってきていなければいいと思って、いそいで帰宅《かえ》った。お高は、若松屋惣七へきた手紙のことで、惣七のためとはいえ、勝手に策動して、しかも、失敗したので、こころが重かった。どうしていいか、わからなかった。
じぶんがおせい様と話しているところへ、磯五と、あのお駒という女がやって来たときに、思い切って、磯五が自分の良人であること、そして、お駒は、磯五の妹でも何でもないことをいってのけることができたら、両方の面皮をいっしょにはいで、それがいちばんよかったのだが、お高は、どうしてもそれができなかったのだが。
その前から、お高があんなにいったのに、おせい様が、ちっとも信じてくれようとしないから、お高に、その力が出なかったのだ。お高が、身分をうちあけて、生きた証拠を示さない以上、おせい様は、磯五のいうことを真に受けて、お高の言には、はじめから一顧をもあたえないにきまっている。だが、お高は、じぶんが磯五の妻であると、おせい様に知られることは恥ずかしくてたまらなかった。とてもいえないのだ。
おせい様と磯五のあいだが、ゆくところまで
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