、死んではおりませんでございます。立派に、生きているのでございます」
「いいえ。あなた様こそ、何かのお間違いでございましょう。五兵衛さまは、わたくしには、何一つ隠さずに、すっかりお話しくださるのでございます。
 そのお内儀さんは、五兵衛さまを捨てて、ほかの男と逃げて、草加《そうか》の在でなくなったのでございますよ。あんな立派な、気だてのおやさしい五兵衛さまをすてて、そんなことをするなどと、女冥利につきた方でございます。おおかた、義理も人情もわきまえない、蛇《じゃ》のようなお女《ひと》だったのでございましょう、ばちがあたったのでございますよ」
 お高は泣き出したいほど、くやしくなってきた。なみだが、お高の眼を、異様に光らせてきた。
「いいえ。五兵衛さんのおかみさんは、そんな恐ろしい人ではございません。五兵衛さんこそ、そのおかみさんにひどくして――」
 おせい様は、にこにこしていった。
「知らない方は、みんなそのお内儀さんの肩を持つと、五兵衛さまがおっしゃってでございますけれど、あなた様も、よく内輪の事情をお聞きになりましたら、きっと、わたくしと同じに、そのおかみさんという女が憎らしくなって、五兵衛さまがお可哀そうだと、お考えになるでございましょうよ。
 その、なくなったおかみさんという人にも、五兵衛さまは、ああいうお人でございますから、何もかも知りながら、それはそれはよくしましてねえ、ほんとに、あのお方は、一つとして非のうちどころのない、見上げたお方でございますよ。めずらしいお方でございますよ。あなた様も、あんなお従兄《いとこ》さんをお持ちで、何かと力になってくださることでしょうから、おしあわせでございますよ。
 あのお方は、女のこころもちが、こまかいところまでおわかりになりましてねえ、あんなにたよりになる方はございませんよ。わたしには、何でも話してくださいますが、その、わがまま女《もの》のお内儀さんという人にも、長いあいだ、したい三昧《ざんまい》をさせて、ずいぶん眼にあまることまで、見て見ぬふりをなすったのでございますよ。あなた様は、ちっともご存じないようでございますけれど、苦労をなすった方でございますよ」
 お高は、夢物語を聞いているような気がするのだ。ただ一つ、夢でないことは、じぶんはこれから、どうしても、このおせい様の眼に、あの磯五の面をはいで、見せてやらなけ
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