うとなすっていらっしゃる、お金のことでございます」
お高は、ここから話を持って行こうと思った。おせい様は、ちょっとはあわてたふうを見せた。
「若松屋さんは、その金が、どうしてもできないというのでございますか」
「いいえ、あなた様が、そのお金を若松屋さまから取り立てて、あの、わたくしの親類の磯屋のほうへまわそうとしていらっしゃる、そのことでございます」
おせい様は、少女のように赧い顔をして、うつむいた。お高は、また、気の毒な気がこみ上げてきた。が、思い切って、つづけた。
「あなた様は、五兵衛さんといっしょにおなりになるにつけて、そのお金を、磯屋の商売のほうへお足しになろうとしていらっしゃるのでございましょう」
おせい様は、いよいよ赧くなった顔を上げた。
「そうでございますよ。五兵衛さまというお方は、いいお方でございますから、わたしは、何もかも五兵衛さまにあげてしまおうと思っているのでございますよ」
「でも、五兵衛さんは、あなた様といっしょになるわけにはゆかないのでございます。あなた様とのみ申さずどなたともいっしょになるわけにはゆかないのでございます。五兵衛さんは、あなた様を、たぶらかしておいででございます。あの人には、女房となっている女《ひと》が、あるのでございます」
若松屋惣七を救いたいこころと、それから、おせい様と磯五の関係への嫉妬が、お高を一生懸命にしているのだ。で、こう、はっきりいって、おせい様を見ると、どんなにおどろくことだろうと思ったのが、案外、おせい様は、急にまたにこにこ[#「にこにこ」に傍点]しだした。
「はい、五兵衛さんにお内儀さんがありましたことは、よく存じておりますでございますよ。あの人は、わたしには、何でも打ちあけて、お話しくださるのでございますよ。一度、女房をお持ちになりましたが、その女房という人は、もう先に、なくなったのでございます。五兵衛さまのことなら、わたくしのほうがよく存じております。ほんとにあの方は、いまはひとり身で、お気の毒な方でございますよねえ」
これも、磯五が、まことしやかにおせい様に話して聞かした、からくりの一つに相違ないのだ。それが、あまりに巧みなのと、おせい様が、それを信じ切っているのとで、お高はあいた口がふさがらない気がした。
三
「うそでございます。何かのおまちがいでございます。磯屋の女房は
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