ははは。」
「そうそう、ははは、泣いたな、あの時は。」
「泣いた泣いた。それで俺が、武士《さむらい》の子は痛くとも泣くものではないと言うたら、貴公、何と答えたか、これは記憶《おぼ》えていまいな。」
「なんと答えた?」
「痛うて泣くんではない。せっかく※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《も》いだ柿を潰してしまうが惜しいというて、また泣いた。はっはっはっは。」
「そんなことを言うたか。いや、これは! はっはっは。してみると、そのころから強情だったとみえるな。」
「三つ児のたましい――。」
「百までもか、はははは。」
「はははは、御同様じゃ。」
 口をつぐんで、しばらく道を拾った。
「しかし、あの時、貴公の泣声に驚いて飛び出して来たお留が、また柿をとったあ、と言うて泣きだしたが――。」
「あれには驚いたな。」
「あのころが眼に見えるようだ。」
「まるで昨日――。」
「早いものじゃな。」
「うん。」
 幼馴染み、はなしは尽きない。が、高輪筋へはいって約束の場所が近づくにつれ、二人ともみょうに重苦しくなって黙りこんだ。
 どっちかが一言いい出しさえすれば、それでことなくすんで、雨の夜
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