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安重根 そうだ。自首してやれ。何でもいい。自首して、あいつらに鼻を明かしてやりさえすれば、それでいいのだ。自首だ。今まできいたふうな口を叩いていた見物人は驚くだろうなあ。今度は生やさしい間諜の噂ぐらいではないぞ。(決然と)腹の底から引っくり返るようにやつらに、背負い投げを食わしてやるのだ――。
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と急ぎ去る。李剛は微笑を含んで見送っている。
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その真夜中。博徒黄成鎬の家。

往来に面した部屋。正面いっぱいの横に長い硝子窓に、よごれた白木綿のカアテンがかかっている。中央に戸外に開くドアあり。左右にも扉があって閉まっている。左は台所、右は別室へ通ずるところ。真ん中に、火のはいっていないストウブを取り巻いて毀れかかった椅子数脚。あちこちに粗末な卓子、腰掛けなど数多ありて、集会所に当ててある。腰掛けの一つは逆さまに倒れ、紙屑、煙草の吸殻など散らばり、乱雑不潔なるさま。赤い紙片で包んだ電燈が低く垂れ下っている。

黄成鎬――博徒。独立党の同情者、五十前後。ほかに禹徳淳、朴鳳錫、白基竜、安
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