負債を生命《いのち》を的にして払わなければならないものでしょうか。
李剛 (凝然と立っている)驚いた。君という人間は、実に女性的だねえ。負債? 何が負債です。君はどうかしている。何もそんな考え方をする必要はないのだ。(なかば独り言のように)やはり病気のせいかも知れない――このごろ、胸のほうはどうです。
安重根 (激昂して起ち上る)負債じゃあありませんか。僕は自由人を標榜《ひょうぼう》して伊藤公暗殺――。
李剛 安君! 君、そんなことを大きな声で言っていいのか。
安重根 (声を落して)自由人を標榜して伊藤公暗殺を計画したんです。ところが、滑稽なことには、その計画が知れると同時に、その瞬間から、僕は同志によって自由人でなくされてしまった。みんなの共有の奴隷になってしまったんです。(激して)嫌です! 断じて嫌です。こうなったら、同志を相手にあくまでも戦うだけです。戦って、この束縛から※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]き出るんです。
李剛 (笑いながら)いったい君はどうしようというのだ。
安重根 同志が聞いて呆れる。あいつらはただ、私を追い詰めて騒いでいれば幸福なんです――。
李剛
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