訊くじゃあないか。(戸外を見て)ひょっとすると、探しに来るかもしれないぜ。
安重根 救世主だ? 馬鹿な! 君までそんなことを言う。だから君には、僕の心持ちは解らないというんだ。
禹徳淳 じゃあ、考えているって何を考えているんだ。
安重根 (半ば独り言のように)ハルビンへ行くよ。なあ、ハルビンへ行こう――。
禹徳淳 もちろんだとも。今になって計画を中止するなんて、そんなことは考えられない。期待に燃えている同志をはじめ、ここまで突き詰めているおれのことも考えてくれ。
安重根 (気軽な調子で)だからさ、行くよハルビンへ。行くと言ってるじゃないか。(急に述懐的に)三年間――長い三年だったなあ。
禹徳淳 そうだ。長い三年だった。
安重根 三年の間、おれは故郷《くに》の家族に一度も会わずに来た。
禹徳淳 (吐き出すように)何だ、そんなことを言ってるのか。
安重根 話したかしら――おれが十六の時、十七の家内を貰ったんだよ。もう三十二のお婆さんだ。子供が三人あってねえ、女一人男の児が二人さ。
禹徳淳 (うるさそうに)聞いたよ。みんな達者にきまってるよ。それより、黄成鎬のところへは、今日行くと報せてある
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