はじめる。柳麗玉は信頼と誇りの面持ちで、うっとりと安重根を見上げている。
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元の隣室、集会所。
第六場の終りのままで、禹徳淳が、電燈から取った赤い紙片を読みつづけている。
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禹徳淳 (大声に)
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かの奸悪なる老賊め
われわれ民族二千万人
滅種の後に三千里の錦綾江山を
無声の裡に奪わんと
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青年らは凝然と聞き入っている。
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青年J (突然叫ぶ)何でもいいや。やっつけりゃあいいんじゃねえか。(禹徳淳へ)なあ、小父さん!
黄成鎬 静かにしてもらいてえね。もう何時だと思う。
青年K 何時だってかまうもんか。安重根さんが来るまでは帰《けえ》らねえぞ。
青年L そうだ、そうだ! みんな安さんを待って夜明かしするんだ。なあ、おい。
青年M 誰が安さんのほかに、生命を投げ出して決行しようという者がある。(叫ぶ)コレア・ウラア! 安重根ウラア!
禹徳淳 (手の赤紙を読み続ける)
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究凶究悪惨たる手段
十強国を欺きて
内臓を皆抜き取りながら
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青年N それは誰の作だ。
同志一 知らないのか。安さんさ。安重根が作ったんだよ。
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これより先、黄成鎬は右側の別室へ行って、禹徳淳が手にせると同じ赤い紙片を数多持って来て同志一、二に渡す。同志一、二はそれを青年らの間に配っている。
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同志二 (配り歩きながら)みんな持ってるだろうが――。
青年O いつ出したんだ。おれはもらわなかったぞ。
青年P 一枚下さい。
青年Q 長いんで、お終いのほう忘れちゃった。
禹徳淳 三節からだ。一緒に読もう。
黄成鎬 大きな声は困りますよ。ここいら露助の憲兵がちょいちょい廻って来て厳《やか》ましいんでね。
青年R 何でえ。びくびくするねえ、おやじ。
禹徳淳 (つづけて)
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十強国を欺きて
内臓を皆抜き取りながら
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合唱 (はじめは低く、おいおい高く、後半は各人憤激の大声で統一を欠く)
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何を不足に我慾を満たさんとて
鼠の子のごとくにここかしこを駈け歩き
誰をまた欺き何れの地を奪わんとするや
されど至仁至愛のわが上主は
大韓民族二千万口を
ひとしく愛憐せられなば
かの老賊に逢わしめ給え
逢いたりな逢いたりな
ついに伊藤に逢いたりな
汝の手段の奸猾は
世界に有名なるものを
わが同胞五六の後は
われらの江山は奪われて
行楽ともになし得ざりしを
甲午年の独立と
乙巳年の新条約後
ようよう自得下行の時に
今日あるを知らざりしか
犯すものは罪せられ
徳を磨けば徳到る
汝かくなるものと思いしや
ああ我等の同胞よ
一心団結したる上
外仇を皆滅して
わが国権を恢復し
富国強民図りなば
世界のうちに誰ありて
われらの自由を圧迫し
下等の冷遇なすべきや
いでいざ早く合心し
彼らの輩も伊藤の如く
ただ速かに誅せんのみ
立て勇敢の力持て
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左側の台所へ通ずる扉に青年Gが凭《よ》りかかって、先ほどからドアの向うへ注意を凝らしている。
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青年G (手を上げて一同を制する)しっ! 静かにしろ。話し声が聞える――。
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ぴたりと音読が止む。
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黄成鎬 (呆けながら不安げに)誰もいねえはずだが――。
青年G (ドアの隙間に耳を当てて)安さんだ。たしかに安さんの声だ。(台所を指さして、一同へ)おい、安重根が来ているぞ!
青年J なに? 安さんが来てる! 台所へか。こっそり裏からはいったんだろう。引っ張り出して演説させろ!
青年L 怪しからん。おれたちがこんなに待っているのに、裏から忍び込んで知らん顔しているなんて――。
青年M 馬鹿! そこが安さんの好いところじゃないか。
禹徳淳 (冷然と読みつづけて)
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国民たる義務を尽さずして
無為平安に坐せんには
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青年たちは一斉に起ち上って「われらの安重根! 安重根ウラア!」と口ぐちに歓呼している。
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黄成鎬 (知らぬふりで台所のドアへ歩き出す)安さんが裏から来た? どれ見て来ましょう。
白基竜 (卓
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