ック夕刊!
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三人の様子に好奇気《ものずきげ》に立ち停まる。禹徳淳が夕刊を買って下手へ追いやる。
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禹徳淳 (新聞を拡げて、大声に)おい、出てるぞ。(紙面の一個所を叩いて安重根に示す)何だ?――「東清鉄道の事業拡張に関する自家の意見を確定するため極東巡視の途に上りたるココフツォフ蔵相は、二十一日ハルビン到着の予定。なお北京駐在露国公使コロストウェツの特に任地より来あわせる等の事実より推測すれば、時を同じゅうして来遊の噂ある伊藤公爵とわが蔵相との会見は、なんらか他に重大なる使命を秘するもののごとく想像に難からずと、某消息通は語れり。」――まだある。この後が大変なんだ。(活気づいて高声に読み続ける)「因に東清鉄道会社は、翌二十二日のため長春ハルビン間に特別列車を用意したり。」どうだい、こいつあ愉快なニュースだ。いよいよこうしちゃあいられない――。
柳麗玉 (勢い込んで、安重根へ)あたし其包《それ》持ってくわ。
安重根 いや、いかん。君はウラジオへ帰れ。帰って、李剛先生に礼を言ってくれ。忘れ物を届けてやったら、安重根は大喜びだったと。(禹徳淳へ)事務的に、ココフツォフの動きにさえ注意していたら、間違いなく、伊藤は向うからわれわれのふところへ飛び込んで来るよ。長春からハルビンまでの特別列車? 二十二日だって?
禹徳淳 (紙面を白眼んで)うむ。逢いたりな逢いたりな、ついに伊藤に逢いたりな――。
安重根 二日早くなったな。曹道先は知ってるんだろうな。
禹徳淳 無論すっかり手配して待ってるとも。おい、もう劉東夏が出て来るころだ。停車場へ行っていよう。
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安重根は拳銃の包みを抱えて、禹徳淳とともに急ぎ下手へ入る。柳麗玉は勇ましげに見送ったのち、気がついて後を追う。薬屋の店から劉父子が出て来る。劉東夏は旅行の仕度をしている。
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劉任瞻 (戸口に立ち停まって)用が済んだらすぐ帰るんだぞ。ハルビンは若い者の長くおるところじゃない。
劉東夏 (気が急いて)え。すぐ帰ります。じゃ、行ってまいります。
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走り去る。
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11[#「11」は縦中横]
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