ぞけば、水のようなうっすらとした宵闇が三味線堀を渡って来るばかり、人影はない。
女はそっ[#「そっ」に傍点]と里好の枕べにしゃがんで、
「さあ、うまくいきましたよ。お起きなさいな」
大事をとって声を忍ばせたが、里好の返事がないので、もう一度くり返そうとすると、すうすうと他愛のない鼾《いびき》、いい気なものだ。里好先生、時ならぬ熟睡の最中とある。
寝たふりをしているうちにほんとに眠ってしまったものとみえるが、何にしても人を食った度胸といわなければならぬ。さすがの女もこれには舌を巻いた。
「まあ! あきれた人だよ。さんざ[#「さんざ」に傍点]あたしに骨を折らしておいてさ」
口には恨みがましく出ても、何ともいい知れないたのもしい気がこみ上げてくる。微笑《ほほえみ》を残して眠りをさまさないようにと跫音を忍ばせ、もとの座へ帰ろうとすると、枕の下に、ちら[#「ちら」に傍点]と光る物が女の眼にはいった。
気味の悪い風が吹いて来たぜ
小判である。
拾い上げて見ると、眼印がある。
抜けるように白い女の顔に、驚愕《おどろき》が紅をさした。
「あれ!」危うく声を立てようとして口を押え
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