い町なみだ、とても逃げおおせるわけはない。
「ひーとーごーろーしいーっ!」
 とっさの機転に叫んではみたものの、物騒な真夜中のことだから、たとえ聞きつけても雨戸一枚あける人はない。そのうちに、ゆるんでいた帯がずるずると解けて蛇のように地面をひきずる。
 そのままで女は走った。
 走りながら帯をたぐろうとすると、どしん[#「どしん」に傍点]とからだがうしろへ引かれたように感じて、追っ手の一人が帯の端を踏んだ。
 ええ面倒な!
 くるくるとまわして帯を残して、また一走りと踏み出したが、押えた前のあぶないのに気がつくと、女はぺたり[#「ぺたり」に傍点]とその場にすわってしまった。
 そうして追っ手が駈け寄ったときには、女は蝦《えび》のように、大地にごろりと寝そべっていた。
 自棄《やけ》のやん八、どうなとなれ。
 女の姿がそういっていた。
 くくりのない着物から土の上に蒼白《あおじろ》い膚がこぼれているぐあい、凄艶《せいえん》すぎて妖異な情景。
「洒落《しゃれ》たまねをしやあがって――」
「太え女《あま》だ」
「白え歯を見せるから悪いんだ」
 なに、たいして白い歯でもない。真っ黄色な乱杙歯《
前へ 次へ
全240ページ中120ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング