かりだ。お前は、枕に頭をつけたかと思うと、すぐうなされ出したのだよ。」
「嫌な夢。あの人は、これからまた毎晩のように来るでしょうよ。」
庄吉の表情に、嫉妬に似た、真剣なものが来た。
「話してごらん。」
眠りから覚めたばかりの半意識のうちに、何をいったか、お久美は気がついた。
「何でもございません。ばかばかしい夢。」
深い眼をしてお久美を見つめたきりで、庄吉は、追究しようとしなかった。
枕をならべて眠《ね》ている子供たちをみてやったのち、お久美は黙って、また寝《しん》に就いた。
四
つぎの朝、蒼い顔で起き出たお久美は、庄吉がおもての店へ出て行ったあと、きのうのように、自分とじぶんに対坐するような心もちで、茶の間にすわった。
かの女は、庄吉のまえに、拭い切れない罪を犯したような気がして、じぶんが、自分のからだが、不潔なものに思えてならなかった。庄吉も、なんとなくあの夢を感づいて、ゆうべから、急に夫婦の間に溝ができたのではなかろうか。不安と憂鬱が、鞭のようにかの女を打ちのめしていた。自分の識らないうちに、恥ずべき大きな秘密を背負わされているといった感じだった。お久
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