い犯罪の話をもう一度くり返した。その揚句、私に対してあらゆる罵詈をあびせたのである。これはやはり車中で私に云った言葉を、ただ下品にしたにすぎなかった。
 署長も私も司法主任も、ただ苦笑してきいて居るより外はなかったのである。
 彼の言葉がやっと終った時、私ははじめて司法主任に向かってたずねた。
「無論、何の嫌疑で彼をお呼びになったか、まだ本人におっしゃらないのでしょうね」
 司法主任は、それを肯定するようにうなずいた。
「云うにも何も、未だ私等の方で何も云わぬうちに、この有様なのです。はじめから相川一人でしゃべりつづけて居るのですよ」
 こう云ってから突然、彼は相川に向かって、語気を強めて訊ねた。
「おい、お前おとといの晩、どこに居た?」
 此の質問は相川にとっては全く意外のものだった。彼は一寸その意味を解するのに苦しんで居るように見えた。
 彼は黙ったまま、ぼんやりと司法主任を見つめて居た。
「お前のかみさんはおとといの夜、うちで殺されたんだよ。だから、おとといお前がどこに居たか、はっきり云えないとお前が危いんだぜ。おとといの朝、上り列車にのった事は判って居るのだ。どこに行っていたの
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